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ZOJIRUSHI

あなたのいつまでも大切にしたいエピソード

入賞作品

優秀賞(入賞)

私のお雛様奈良県 城田由希子 さま

小学五年生の早春。仲良しの友達が満面の笑顔で私に言った。「今日、私の家に遊びに来て!」いつもは外遊びをするのに、珍しく家の中で遊ぼうと言われた。初めて奥の和室に案内された。「ジャジャーン」友達がふすまを開けるとそこには七段飾りのお雛様が輝いていた。「やっと買ってもらってん」ぴかぴかのお人形たち。三人官女、五人囃子、御所車、菱餅、桃の花。一つ一つの名前を丁寧に教える友達は本当にうれしそうだった。買ってもらったいきさつ、飾るときの苦労話。どれも私にとって魅力的で聞いていて飽きない話だった。その日はお雛様の前でずっと過ごした。

ひな人形夢見心地で自宅に帰り、さっそく両親にお雛様を買ってと頼んだ。困った顔をして両親は言った。「今年はもうお店にないからまた今度ね」毎年春が近づくとお雛様を買ってと私は両親に頼み続けた。部屋が狭いからとかいろいろ理由をつけて結局買ってもらえなかった。当時お雛様は決して安い買い物ではなかった。それに我が家は裕福な家庭ではなかった。そんなことがうすうす分かりかけた頃から私は買ってほしいと言えなくなった。わがままを言い続けていたことが恥ずかしくなった。

私が二十九歳で嫁ぐ日に母は言った。「女の子が生まれたらお雛様を買ってあげるね」お雛様のことはすでに諦めていたが、母はちゃんと覚えていてくれたのだと驚いた。気持ちがとてもうれしかった。その後二人の子どもに恵まれたがどちらも男の子だった。

次男が生まれた翌年のお正月、家族で実家へ行った。「まあまあこちらへ」母が和室のふすまを開けた。そこには博多人形のお内裏様とお雛様が飾られていた。「やっと願いを叶えてあげられたね。孫は女の子ではないけど、あなたは女の子だからね。お父さんと私からの贈り物」孫をだっこしながら私を見る両親の笑顔があの日の両親の困った顔と重なった。

あれから十六年。私は亡き両親の遺影の隣に毎年、お雛様を飾り手を合わせる。

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