象印 ZOJIRUSHI

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新事業「みまもりほっとライン」サービス開始2001 (平成13)年

1996(平成8)年4月、東京都内の下町で、病気の息子と看病していた高齢の母親がともに亡くなり、その1カ月後に発見されるという悲しい事件が起こった。それから間もなく、あるソフト開発会社から象印に相談が寄せられる。「日用品を利用して、お年寄りの日々の生活を見守る仕組みができないだろうか」。それは、先のニュースにショックを受けた東京在住の医師の発案によるものだった。

高齢社会を前に将来につながる重要なテーマとして、商品開発センターは、早速研究に着手。翌年「在宅安否確認システム」を共同開発する。一人暮らしのお年寄りが電気ポットを使うと、その状況が電話回線を通じて離れた場所からも把握できる。毎日、ほぼ規則的に使われる電気ポットの使用状況から、元気な様子を確認したり、異常の兆候を発見したりできるシステムだ。果たして実用に耐えるだろうか、お年寄りはどう評価するだろうか―。延べ約70台のテスト機を用い、2年間にわたるモニタリングを実施した。
予想を超えた反響だった。さまざまなメディアにも取り上げられ、テレビ放映の直後には、視聴者から商品化の問い合わせも数多く寄せられた。しかし、電話線を利用した専用の通信機とパソコンを使うため、商品化には設置やメンテナンス要員が必要となる。事業化は困難だった。「これ持って帰るの?寂しくなるなぁ」。テスト機の回収に訪れた、お年寄りのお宅で耳にしたつぶやきが、開発スタッフたちの心に焼きついた。

やがて、携帯電話とインターネットの急速な普及が状況を変える。無線パケット通信機を使えば設置工事は不要となりメンテナンスも容易だ。インターネットを利用すれば、いつでもどこでもデータにアクセスすることができる。以前より格段に安く、速く、容易にデータ受信できる環境が整ってきたのである。1999(平成11)年、プロジェクトが再開された。

しかし再び、壁が立ちふさがる。事業化するためには、経験のない通信サービスの分野に足を踏み出さなければならない。採算性、市場規模の不透明性、料金の回収リスク、お客様対応リスク、撤退リスクなど、検討を重ねるほど事業化は遠のくばかりだった。そこに、NTTドコモ関西と富士通から支援の手が差し伸べられる。異業種3社がビジネス協議会を発足し、リスクを互いに負担しあう案が提示されたのだ。事業化への道が一気に開けた。「ITで高齢化社会に新しいコミュニケーションを提供する」というコンセプトが共感を呼んだ結果だった。

サービス開始に向け、最終的な商品開発が始まる。より親しみやすいシステムを実現するためには、“見かけは普通のポット”でなければならない。ポットの中に通信機器を組み込み、絶対の防水処理が施されていること。大きさもコンパクトなままに。

こうして2001(平成13)年3月、「i-POT」は完成し「みまもりほっとライン」のサービスが開始された。商品化を待ち望んでいた人々にとっては、期待以上に日常生活に馴染む商品であった。と同時にこの商品とシステムは、今でいうIot技術を搭載した、家電品と情報通信が融合したビジネスモデルの先駆けとなったのである。

みまもりほっとラインの記者発表会
内蔵された通信機
電気ポット「i-POT」
翌2002(平成14)年には、携帯電話でi-POTの使用状況を確認できる「携帯ウェブサービス」も開始