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開発秘話

『炎舞炊き』の巻 Vol.19 業界初!※1 3つのIHヒーターで生み出す「炎のゆらぎ」『炎舞炊き』の巻 Vol.19

2018年夏、創業100周年を迎えた象印から新たな圧力IH炊飯ジャー「炎舞炊き」が発売された。象印といえばかまどで炊いたごはんの美味しさを追求した「極め羽釜」と「南部鉄器 極め羽釜」が知られているが、今度の新製品はまったく違うアプローチでかまど炊きのごはんの美味しさを再現したものだ。底のIHヒーターを3つに増強し独立制御するというかつてない技術は、業界初※1。同じく業界初※2となったアルミとステンレスに鉄をはさみ込んだ内釜とともに、鮮烈のデビューを飾る。業界の常識を打ち破るこの新製品の誕生を支えたのは、技術者たちのひたむきな開発魂だった。 ※1 2018年5月31日現在 家電用炊飯ジャーにおいて当社調べ
※2 2018年5月31日現在 アルミ、ステンレスのクラッド材に鉄を挟んだ釜として 家庭用炊飯ジャーにおいて 当社調べ

開発担当者

開発担当者

  • 三崎 純(左)JUN MISAKI
  • 船越 哲朗(中)TETSUO FUNAKOSHI
  • 徳岡 卓真(右)TAKUMA TOKUOKA
成功体験を捨て、ゼロからスタート

炎舞炊き 昔ながらのかまどごはんを再現した高級炊飯ジャー「極め羽釜」シリーズが誕生して8年、内釜の素材に南部鉄器を採用した「南部鉄器 極め羽釜」が世に出てからは7年の月日が経った。象印の技術力を象徴するこれらの「極め羽釜」シリーズは、発売から今日まで変わらずに消費者の高い評価を得ている。なかでも「南部鉄器 極め羽釜」の人気は衰えを知らず、押しも押されもせぬ象印の看板ブランドへと成長を遂げた。

だがその一方で、「極め羽釜」シリーズにも、いくつかの課題があった。「極め羽釜」の羽釜は炊飯時の米の対流に最適な形状だが、一般的なものより広く浅い形をしているため、炊飯ジャー本体のサイズが大きくなってしまう。そのため、5.5合炊きのみのサイズ展開となり、1升炊きタイプがつくれなかった。また、南部鉄器は発熱効率と蓄熱性が非常に高くごはんの美味しさや甘みを引き出すが、他素材に比べると内釜が重いのも課題だった。さらに、ここ数年は他社の攻勢を受けて、高級炊飯ジャーカテゴリーでシェアを落としているという事実もあった。

これから先も炊飯ジャーのトップブランドとして走り続けるためには、「極め羽釜」シリーズの成功にいつまでも甘えず、さらなる高みを目指さなければならない。そうした思いは全社共通のものだった。「まずは『極め羽釜』の成功体験を一度捨てて、ゼロからスタートしてみよう」。そう決意した開発チームは、新たな挑戦をはじめた。2014年の年の瀬のことだった。

かつてない挑戦で、「炎のゆらぎ」に迫る

圧力 釜 炎 象印が求める美味しいごはんを突きつめていくと、やはり原点となったのは「昔ながらのかまどで炊いたごはん」だ。開発チームは再び昔ながらのかまどを徹底的に検証することからはじめた。赤外線カメラで熱の動きを観察してみると、釜の内部の高温部分が絶えず変動していることが分かった。これはIHヒーターで均一に加熱する炊飯ジャーにはない、かまどならではの現象で、原因はかまどの炎の不規則な「ゆらぎ」にあった。かまど炊きのごはんの美味しさを実現する炊飯中の激しい対流は、この「炎のゆらぎ」によって釜内の温度にムラができることから生まれていたのだ。また、釜の中に水を入れて温度上昇と加熱時間をはかり、かまどの炎を単位面積で数値化したところ、その火力は業界トップレベルを誇る象印の最新モデルでも到底およばないほどの「強い炎」であることも分かった。このかまどならではの「炎のゆらぎ」と「強い炎」による激しい対流を炊飯ジャーで実現することができれば、今より美味しいごはんを炊くことができる。開発チームはそう確信した。「極め羽釜」シリーズでも内釜の形状から対流にアプローチしていたが、今度は炎そのものにIHで迫ることに決めた。めざすはかまどの「炎のゆらぎ」と「強い炎」だ。

開発のミッションを任されたのは、第一事業部の三崎純だった。炊飯ジャー開発の基礎となる新技術を担当する「要素技術」の研究者である。 一般的に炊飯ジャーのヒーターというのは、炊飯ジャーの胴体、ふた、底部の3ヶ所に搭載されている。その中でも底部のIHヒーターが、一番火力が大きく、炊飯フローにとって重要な要素をつかさどっている。三崎はまず現行の炊飯ジャーの胴体、ふた、底部の3カ所に搭載されたヒーターの制御プログラムに着手した。現状のヒーターを生かしながらプログラムでかまど炊きのような対流を実現できないかを検討したのだ。だが、いろいろ工夫をしても温度差はほとんど生まれず、対流も促進されなかった。次に現状のIHヒーターを使って部分的に加熱できないかを検証した。しかし、火力が足りなかったりするなど、なかなか思うようにならない。試行錯誤を繰り返していたある日、生産開発本部のトップから三崎に一つのアドバイスが与えられた。「本体底部にあるIHヒーターの変更を考えてもいいぞ」。それは単なるアドバイスを超えた、開発の運命を定める大きな決断でもあった。三崎は耳を疑った。「とても驚きました。口には出さないものの『ええっ!? ほんまにやるんですか!?』と思いましたね(笑)」

  • 三崎 純JUN MISAKI

三崎自身も実は、「本体底部のIHヒーターのコイルを3つに増強させて個別に制御すれば、かまどの炎のゆらぎを実現し、対流をコントロールできるだろう」という考えは持っていた。だが今ある象印のIHは、1992年に搭載して以来26年間大きく手を加えられていない基礎中の基礎の技術。たとえ自分が担当している段階で成功させたとしても、量産化に向けた開発や炊飯フローの調整など、製品化までに数々の大きな困難が待ち受けていることは容易に想像がついた。つまりアイデアとしてはあったものの、リスクが高過ぎるため、着手できないでいたのである。すでに他社の事例も調べていたが、IHを分散化しているところはあっても、形を変えて独立制御まで実現しているメーカーはまだなかった。「本体底部のIHヒーターを変えるのは未知の領域です。研究のベースになりそうな論文や文献資料もほぼありませんでした」と、三崎は当時を振り返る。だが、上層部はそこまでの覚悟で、新しい炊飯ジャーを開発しようとしているのだ。「こうなればやるしかない。ダメならダメで早く報告すべきだろう」と覚悟を決め、三崎は手探りで開発をはじめた。

三崎がはじめに着手したのは、コイルを手巻きすることだった。外注先に対応できるか相談してみたが「やったことがないので難しい」と断られてしまった。もちろん当時は試作用のコイルを巻く機械なども存在していない。自分で手づくりするしかなかった。いろいろな種類のコードをひたすら巻いてデータをとった。太いコードを巻いて手を傷めたり、細いタイプがうまく巻けなくて不格好になったり。どれくらいの線をどれくらいの回数巻けば、どれくらいのパワーが出るのか。並べることでノイズはどのように出るのか。つくっては測り、測ってはつくって、正解を探っていく。データをパソコンに入力する時間さえももどかしく、手書きでメモをとりながら作業を続けた。

この時期、三崎は生産開発本部のトップから直接、度々アドバイスを受けた。「開発のトップ自ら『どう?』とアドバイスに来られるのは珍しく、期待されているんだと思って必死で頑張りました」と三崎は言う。このアドバイスが不安な心持ちで前人未到の開発という名の荒野を進む三崎の背中を押してくれたことは想像に難くない。密なやりとりのなかで、複数になったコイルをどのように配置し、どう動かすかというイメージも共有されていった。それは「円形に熱源を配置し、発熱する箇所が内釜の底をぐるぐる順番に変わっていく」というものだった。新たな複数型のコイルも、現在のコイルが設置されているのと同じく釜の底に設置する。スペースを考えると一つひとつのコイルに割けるスペースは限られてしまう。だが、かまどの炎の強さを再現するには一つひとつのコイルが現状のコイルと同じ電力に耐え、同じかそれ以上の発熱パワーを持っていなければならない。これらの条件との兼ね合いから、コイルの数は3つとなり、最適な形状が模索されていった。

こうして3ヵ月が過ぎる頃、なんとか形が見えてきた。部内には「炊きムラがでるのでは?」と新技術に懐疑的な声も残っていたが、三崎が試作機を披露するとその不安は一掃された。3つのコイルによって今までに見たことのない激しい対流が内釜のなかで起こったのだ。炊きあがったごはんは粒が大きく、美味しさや甘さの指数も前のモデルを超えていた。これなら「極め羽釜」シリーズを超える象印の代表ブランドになりえると、その場にいた全員が確信したという。またこの構造なら内釜の形状に関係なく対流が生み出せるため、本体サイズもコンパクトにできる。「極め羽釜」シリーズの課題であったサイズ問題を解消できるし、1升炊きをつくることもできるのだ。開発チームはこの新技術を「ローテーションIH構造」と名付け、採用を決定。全く新しい炊飯ジャー「炎舞炊き」の開発を本格始動させた。

量産化に向けた開発がスタート
  • 徳岡 卓真TAKUMA TOKUOKA

製品化を決める会議でも無事好評を得て、「炎舞炊き」を搭載する製品が決定したのは2017年の春。量産化開発担当の徳岡卓真と炊飯フローや開発を担当する船越哲朗は、三崎がつくった試作機とはじめての対面を果たした時のことを今でも鮮明に覚えているという。手巻きのコイルや手づくりの装置はかなりのインパクトがあった。そして現行品よりも明らかに部品が多い。コイルが3倍になったぶん制御する付属部品だけでも単純に3倍必要になるのだ。これらをすべて量産化できる形に仕上げ、なおかつコンパクトな本体に設計しなければならない。すべてが新しく、すべてが未知数で、かつてない挑戦になることを、この試作機が雄弁に物語っていた。だが、徳岡は一目でこの試作機に魅せられていた。「『お、すごいな次のモデルは。今までとはちょっと違っているな』と思いました。実際に食べさせてもらったらごはんも美味しくて、これは形にしなければ…! と気合が入りましたね」。一方、船越はただひたすら「?」の嵐だったという。「『なんだろう、これは? 美味しいのかな?』というのが、正直な第一印象でしたね。南部鉄器が美味しいのは分かっていましたので、それ以上のものができるのかな? というのもありました」。だが、食べてみると今までの炊飯ジャーで炊いたごはんを超える可能性が感じられた。ふっくらとしながら香りも良く、米の弾力と甘みのバランスが取れたごはんに仕上げていくための道筋がかすかに見えた。「同時に、フロー開発は絶対大変になるだろうな……とも思っていました(笑)」。こうして、三崎の手づくり試作機は、熱い技術者魂を持つ二人に託されたのだ。

開発にあたり、徳岡がもっとも時間を割いたのは、3つのコイルの形状を決めることだった。三崎の試作である程度の段階まで進んでいたが、量産化のフローではより緻密な詰めが必要となる。正円がいいのか楕円がいいのか、楕円だとすれば縦長なのか、横長なのか。コイルの巻き数、線の太さは何がベストなのか。ほんの少しの違いで発熱の仕方が変わってしまう中で、どんなコイルのどの配置がもっとも甘みを引き出す対流を起こせるのかを探らねばならない。徳岡はたくさんの試作機をつくって船越の元に持ち込み、実際に炊いて検証したという。「条件を一緒にするために試験機の本体は同じにして、毎回バラして付け替えました。『せっかく出すなら一番良い形で一番良い炊き上がりで出そう』と2人で話しながら、ひたすら検証しましたね」という徳岡の言葉に、船越も頷く。「1ヵ月ふたりで試行錯誤して、だんだん見えてきたんですよ。ここをこうしたらもっと美味しくなるんじゃないか、と予想もつくようになりました」。当時2人は18台の試験機を1日で6回炊飯していたという。コイルの検証だけで1ヵ月に1.5トン弱の米を炊いていたのだ。

また、コイルの形状と同時に、本体の設計も進んでいた。新作の炊飯ジャーは現行品よりも小型に仕上げることも今回の大切なミッションである。徳岡は内部の配置を設計しながら、デザイン担当者とのやり取りを何度も行った。数が増え直径が小さくなったコイルは今までにない工夫も必要となる。本体内の構造や部品なども一からの設計となり、何度もつくってはやり直し、ベストな形をつきつめていった。もちろん制御のために増えた部品も本体に納めなければならない。また、生産時の組み立てで傷がついて欠品が出たりしないよう、配線にチューブカバーをつけるなどの細かな配慮も行った。

南部鉄器の思想を継承した業界初※2の内釜

また徳岡は、炊飯ジャーの内部設計に先んじて、内釜開発にも着手していた。開発チーム内では、すでに圧倒的なブランドとなっている南部鉄器の継続も検討されたが、3つのヒーターをローテーションで加熱する「炎舞炊き」には、熱伝導の要素が重要だと考えられた。そこで鉄の高い発熱効率と蓄熱性を継承しつつも、熱伝導の優れたアルミ、蓄熱性と耐久性にすぐれたステンレスを組み合わせた新たな内釜が考えだされた。「南部鉄器を使用せず新しく開発するというのはすごい決断だったと思います。だからこそ新しい内釜は、進化していなければなりません」と、徳岡はいう。もちろんこの構造も、初めての試みだ。徳岡はそれぞれの金属の厚みはどれがベストなのかを探るため試作を開始。3種類の素材の相乗効果を活かし、「炎舞炊き」ならではのローテーション加熱が活きる内釜の構造を検証していった。

今回、内釜のふちには非常に厚いステンレスリングがついた。このリングは、「極め羽釜」のエッセンスを継承している。ステンレスが「極め羽釜」の羽根の部分のように上部の熱を集め、保温や炊きあがりの味を良くしてくれるのだ。同時にこのリングは、内部にある鉄をサビから守るのにも役立つ。内釜づくりでもっとも苦戦したのは、プレス加工からステンレスリングを取り付ける加工だったという。アルミとステンレスで構成された内釜は現行品にもあるが、鉄をはさみ込んだものは誰もつくったことがなかった。鉄が入るだけでプレスがぐんと難しくなり、また、リングを確実に取り付けるため、プレスの精度、リングの精度なども従来以上に求められるために、製造協力先を見つけるのに苦心したという。日本だけでなく、海外でも協力してもらえる企業を探し、2018年に入ってやっと加工の依頼先を決定することができたのだった。こうして「蓄熱性」「発熱効率」「熱伝導」の三拍子揃った内釜が誕生、「鉄〜くろがね仕込み〜 豪炎かまど釜」と名づけられた。

膨大な量の炊飯フローに挑む
  • 船越 哲朗TETSUO FUNAKOSHI

徳岡が本体と内釜の設計に取り組んでいる頃、船越はひたすら炊飯フローの検証にいそしんでいた。そもそも炊飯には「予熱」「中パッパ」「沸とう維持」「蒸らし」と呼ばれる4工程があり、それぞれの時間や切り替えるタイミング、温度などによって炊き上がりの味が変わる。従来のフロー検証だけでも相当な量になるのだが、「炎舞炊き」は3つのコイルが独立制御されており、そのタイミング次第で何通りもの対流が生まれるため、フローの検証も別格の難しさになった。船越は3つのコイルそれぞれの集中加熱する時間と火力を調整しては測定し、食味するということをひたすら繰り返し、その中からベストのタイミングを見つけていった。もちろん白米だけでなく、玄米や雑穀米なども検証していく。間違いなく、象印史上最大の膨大な検証作業だった。その証拠に、通常は1年間でのべ4トンの米を炊くところ、船越は約半年間で3トンもの米を炊飯したのである。

いよいよ、全国一斉発売へ!

こうして象印の新しい炊飯ジャー「炎舞炊き」は無事に量産に入り、発売日も2018年7月21日に決定。発売日当日は、全国の店頭に約1万台が並んだ。今年で象印は創業100周年。この記念すべき年に、業界初の全く新しい炊飯ジャーが誕生したというのは、なんとも感慨深い。「炎舞炊き」は、象印の長い歴史のなかで育まれてきた炊飯ジャーの技術と、ものづくり精神の結晶なのだ。「ローテーションIH構造」を生み出した三崎は振り返る。「ずっと炊飯ジャーで大きな仕事がしたいと思っていたので、いい機会をいただけたと思います。わたしの手づくり試作品がこんなハイレベルな完成品になるなんて感激です。徳岡君と船越君やチームのみんなが自ら考え工夫して、ここまで完成度をあげてくれたおかげですね」。その言葉に徳岡も頷く。「最初に手づくりの試作品を見たとき『これはヒットする!』と思いましたし、ずっと課題だった1升炊きがつくれるというのも、モチベーションになりました。「南部鉄器 極め羽釜」を越える、新しい挑戦ができたのが良かったですね」。家電量販店のバイヤーへの事前商談や説明会に営業担当者と同行し、実際にお客様の反応に接している船越は、すでにヒットの確信を抱いている。「実は『日本で一番美味しいごはんが炊ける炊飯ジャーをつくりたい!』と思ってこのチームを希望したんです。既に試食していただいた方からは『南部鉄器も美味しいけど、これもすごく美味しいね』と言われることが多くて、本当に嬉しいですね」。はたして「炎舞炊き」は「南部鉄器 極め炊き」を超える象印の新しいレジェンドとなるだろうか。すべては発売後に明らかになることだ。だが、開発者たちはそれぞれに、確かな手応えをしっかりと感じている。

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