黄ばんだごはん佐藤 里美 様 40代・女性/北海道 在住

 私が、友達の家にはじめて泊まったのは、小学校の2年生の時でした。いつも一緒に遊んでいた友達の家に、母に「帰っておいで。」と言われずに、ずっと一日中居られるんだ!と、とてもわくわくしていたのを覚えています。
 想像していた以上に楽しい時間を過ごした後、友達のお母さんが「ごはんだよ、手を洗っておいで。」と言い、友達とキャーキャーさわぎながら手を洗い、食卓につくと、私は目をテーブルに固めたままつっ立ってしまいました。
 それに気づいた友達が、「どうしたの?」と聞いてくれましたが私はその時、何も言えませんでした。本当は、食卓にまっ白なごはんが置いてあったのにびっくりしたのですが、そんな事を言ったら、我が家では少し黄ばんだごはんを食べているのをバラしてしまう気がして、恥ずかしくて言えませんでした。
 ごはんを食べ終わって、しばらくすると、私は、いつもさわがしい我が家がだんだんと恋しくなり、しくしくと泣きはじめてしまいました。それを見た友達のお母さんが、私を家まで、車で送ってくれました。さびしそうに手をふる友達が道の向こうに小さくなった後、私は、一目散に家の中に転がり込みました。母は、私をしかる事もなく、なんでもないフリをしながら、「ごはん、食べたかい?」と聞いてきました。
 本当は「友達の家だから」と気をつかって、あまり食べられませんでした。なので、あいまいな返事をすると、母は台所に立ち、少しして、いつものわかめのみそ汁とたくあんと、黄ばんだごはんを出してくれました。私がすぐにごはんを口にかき込むと、母はだまって私を見ていました。
 家で食べるごはんは、白いごはんよりもなぜかすごくおいしくて、先程私がこのごはんの事を恥じた事がすごく悪い事に思えて、涙がとまりませんでした。ごはんの一粒一粒に、「ごめんなさい」を込めて食べました。
 その日の私の家の少し黄ばんだごはんは、私を少し、大人にしてくれました。ありがとう、ごはん。