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開発秘話

炊飯ジャー圧力IHの巻「さらにおいしい」IH炊飯ジャーの新機軸を求めて

転機は妻の何気ない一言だった。

平成6年秋、西脇が取り組んでいたのは「蒸気を減らす炊飯ジャー」の開発だった。蒸気が結露や内装を傷める原因なら、蒸気を内容器に閉じ込めてしまおう…その発想が頓挫しかけていたときに、妻の何気ない一言が後のヒット商品「圧力IH炊飯ジャー」の開発につながった。
「蒸気を減らす炊飯ジャー」の開発に頭を悩ませていた西脇に、転機が訪れたのは妻の何気ない一言だった。「ねえ、お父さん、ごはんの味は結局お米しだいなのかな?標準米でもコシヒカリのように炊ける炊飯器を開発してみてよ」その時、西脇は閃いた「そうだ、なにも蒸気にこだわることはない。ごはんのおいしさに立ち返ってみよう。」IH炊飯ジャーの登場で「ごはんのおいしさ」への追求が一つの到達点に達したと思っていた西脇に、「標準米でもコシヒカリに匹敵する味に変える、そんな炊飯ジャーを開発する」というチャレンジ精神が湧きあがった。

圧力をめぐる構想

日本人が好む「こしひかり」は、標準米と比べ粘りと腰のある弾力感(もちもち感)が大きな特長である。圧力を掛けることで水分の浸透を助け、さらに沸点も高まるのでより高温での炊飯が可能になる。そうすることでごはんの持つ粘りと弾力を引き出せるのではないか。
いかにして圧力を掛けるか?西脇には一つのアイデアがあった。それは、「蒸気を減らす炊飯ジャー」を開発中の問題点であった。蒸気を減らすには単純に蒸気口を塞げばよいのだが、そうすると逃げ場が無くなった蒸気によって、炊飯器の内圧が高くなる=圧力が掛かるのである。この原理を応用して、炊飯に必要な理想的な圧力を掛ければよい。蒸気口にボール状の弁を取り付け、一定の圧力以上になれば蒸気を逃してやる。新しい構図が西脇の頭に次々に浮かび上がってきた。

翌年春、試作品を抱えた西脇が炊飯ジャー開発チームに合流した。開発チームで西脇を支えたのは福嶋だった。福嶋は炊飯工程での電力量や温度調節など、炊飯フローのソフト開発を担当していた。西脇のよき相談相手だった。
それでも福嶋には「圧力」に対する躊躇があった。加圧中に内側から大きな力が掛かる。安全と言い切れるか?本体の堅牢性は大丈夫か?福嶋の懸念に西脇は自らの構想で答えた。複数の安全機構、本体の補強構造等々…西脇の言葉にうなずき、ときに反論しながら、福嶋は新しい商品の姿を思い描き始めている自分に気づいた。

おいしさと安全性と

「これまでとはまったく違う味だ」試し炊きのごはんを一口食べて、福嶋は思った。従来の炊飯ジャーでは、いくら炊飯フローに工夫を重ねても米の質は超えられなかった。「これは、だれが食べても炊き上がりの違いがわかる。」いつ、どれだけの圧力を掛ければよいか、さらに検証を重ねれば一層おいしくなるはずだ。炊飯を熟知した福嶋は、西脇の発想を「おいしいごはん」として具現化させる不可欠な存在だった。二人で試し炊きを重ね、炊き上がりの粘りと弾力性を検証する実験を繰り返した。毎日毎日試食をし、ようやく甘み、粘り、弾力性、すべての面で理想的な炊き上がりとなる加圧開始時期を突き止めた。そしてどんな種類の米でも安定してほどよい粘りが生まれる圧力、本体に負荷をかけすぎない圧力。1.1気圧の指標が決まった。「ごはんのおいしさ」とともに確立すべきことが「安全性だった。」1.1気圧は炊飯ジャーの上に40キロの重しをのせた状態に相当する。内側から圧力がかかる際、万一にもフタが吹き飛ぶようなことがあってはならない。また、炊飯時に圧力鍋のような特別な操作(加圧、減圧)がいらず、今までと同じ操作で炊飯できる機構が必要だった。西脇には圧力制御装置「ソレノイド」(後に発明大賞受賞)の構想があった。深夜、静まり返った開発室。福嶋は「帰りましょうか」という声を何度も飲み込んだ。「ソレノイド」の作動試験に没頭する西脇の背中に、技術者の意地が見えたような気がした。

フェイルセーフの発想

「圧力を掛けて本当に大丈夫なのか?」新製品説明会議で経営陣を説得することが西脇・福嶋二人にとっての正念場となった。ボール弁の制御と同時に内蓋のロック機構が連動する「ソレノイド」。万一の誤動作に備え1.15気圧で開くリーフ弁。1.5気圧で内圧を逃す内蓋パッキン。さらに、梁状に埋め込まれた補強金属。内釜が圧力を受け止めることのできるフック形状。幾重もの安全機構が会議の席上で公開された。また、「ソレノイド」には、圧力炊飯時の停電に備えてスプリングの力でロックを解除できる機構も搭載されていた。それらは、万に一つのエラーが発生しても事故に直結することを防ぐ「フェイルセーフ」の発想を形に表したものだった。二人の説明を聞いていた当時社長市川博邦(現会長)が口を開いた。「そこまで想定して、安全に配慮したものなのだな」圧力IH炊飯ジャー【NH-FS型】の製品化が正式に決定した。

進化する圧力IH炊飯ジャー

平成8年、秋の新製品発表会。【NH-FS型】で炊き上げたごはんを試食した販売店主が声を上げた。「これが本当に標準米なのか!!」
『圧力炊飯のうまさ』が市場に浸透しはじめた頃、西脇・福嶋のコンビは新たな開発に取り組んでいた。
NH-FS発売の2年後には、1.15気圧で炊飯する【NH-KS】がより高いレベルでの炊飯を実現した。そして平成14年には、炊飯時の圧力をお客様のお好みで1気圧から1.3気圧まで可変できるタイプの【NP-AS】が登場した。二人は互いを「腐れ縁」と呼び称しながら、さらに新しい課題に取り組み続けている。

開発担当者
西脇悟(左)福嶋正巳(右)
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