象印 ZOJIRUSHI

象印マホービンのとりくみ

開発秘話

モノづくりの原点に立ち返って

底面積半分という発想

「中途半端な商品ではあかん。本当に自分で使いたくなるような商品を作ろう」。杉山はそう心に決めていた。昭和61年の入社。翌年、社内公募で念願の商品部へ配属となった。食器乾燥器の商品企画は、初めて一から任された仕事だった。

入社当初の配属先で、食器乾燥器の開発プロジェクトに参加したことがあった。そこでは、デザイン担当の川崎と、設計担当の大島を目の前に、各部署から集まった8名の女性社員が消費者の視点で意見を言い合う光景があった。そのとき、他社の食器乾燥器を、みんなで順番に使ってみてはどうかということになった。当時の主流はドーム型で大型化が進んでいた。杉山の一人住まいのアパートではどれも大きすぎ、調理スペースがなくなってしまう。「置ければいいというものではない」と実感した。しかし、この時に製品化されたタイプは他社と明確な差別化がはかれず、売り上げは不振だった。

この苦い経験から、新製品の企画では狭いスペースに置けることに徹底してこだわった。主婦200人を対象にしたアンケート調査の裏付けもあった。食器乾燥器を使っていない人の約7割は「欲しいけど置き場所がない」と答え、また、使用者の4割以上が「使っているがじゃまになる」という不満を持っていた。
当初の企画では従来品の7割程度の大きさを想定していたが、それを見た上司が言った。「本当にみんなをアッと言わせたいなら、半分にするくらいの目標を持たなあかん」。胸にガツンと響く言葉だった。何としてでもやってやろう...心が奮い立った。

熱意が原動力に

平成元年4月。えらいものを出してきたな...川崎と大島は、杉山から新製品の企画説明を受けて唖然とした。一目見て製品化は無理だと感じた。だが、省スペースという発想はすばらしい。
杉山は商品の寸法を決めるために、社員100名を対象にアンケートを実施し、流し台とよく使う皿の大きさを集計していた。そんな実証を重ねて練り上げた、二段式収納で縦型コンパクトの新製品企画案からは、モノづくりへの強い熱意が伝わってきた。なんとか彼女の企画を実現してあげたい、そんな思いがわき起こっていた。
三人は毎週のように集まり、アイデアを練った。まずは、省スペースを実現する扉の開閉方法を考えなければならなかった。蛇腹式を検討したが、それではお手入れが難しくなる。そんなとき、川崎がひらめいた。本体の外観に沿って扉を左右にスライドさせれば場所を取らずにすむ。ダンボール素材でモデルを作り、みんなで検討した。大島の提案で、お手入れしやすいよう扉を取り外し式にする設計も可能になった。奥行き29.5センチ、高さ49.5センチ。一般家庭の流し台に収まる大きさのモデルが完成した。
最後まで難航したのは食器の配置だった。当初、3〜4人用だった企画が、営業サイドの要望で急遽4〜5人用に変更された。大島が紙製の皿を用意し、何度も並び変えては無駄のない配置を検討した。大皿は直径24センチを想定し、下段中央にスペースを確保した。さらに奥側の壁に窪みをつけて、直径27センチの大皿が2枚置けるようにも工夫した。

発売に向けて苦難の道のり

10月に設計図が完成した。次の難関は、社内の企画提案会議だった。これまでにないタイプの商品、それも実績のない若い社員の企画が受け入れられるのか...不安が募った。杉山はできうる限りの説得方法を考えた。販売店の反応をさぐるため、発砲スチロール製の試作モデルを持って大手量販店を回った。販売店の評価は上々だった。これならいける、心強い味方を得た思いだった。
企画提案会議では、プレゼンの後に役員をクッキングルームに誘導した。会議室の机上ではなく流し台の上で、試作モデルと他社製品を比較してもらうためだった。試作モデルに扉を付け、より精巧に仕上げてのぞんだ二度目の会議で、やっと企画が通った。
製品化の過程でも困難は続いた。まったく新しい商品、しかも、全体にアールのついたデリケートな形状であるために、金型成型ができないという壁にぶちあたった。大島が辛抱強く交渉しながら、成型会社の担当者と知恵を出し合った。川崎も加わってデザインも再検討し、何度も図面を修正した。しかし、やっとの思いで完成させた金型で試作品を作ると、何度やっても扉の部分にひびが入った。調整を繰り返し、仕上がったのは6月の新製品発表会の前夜。翌朝、大島が会場まで試作品を持参し、何とか展示に間に合わせた。

平成2年9月に発売された食器乾燥器『クリアドライ』は、「底面積が約半分の省スペース型」というコンセプトが歓迎され、ほとんどの電気量販店に並んだ。持ち帰って大きさを確認できるように、開くと商品の底面積の大きさになる四つ折のカタログが添えられていた。狙い通りに、キッチンが狭くて買えなかった人々に支持されて、一年目には67,000台を売り上げた。その後も他社の追随を許さず、「縦型なら象印」という評価を確立。いまも息の長い定番商品として、食器乾燥器の一市場を支えている。

開発担当者
川崎 金悟杉山 一美大島 三三夫
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