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開発秘話

六人用・省スペースの新提案 『ミニでか』食洗機の巻 Vol.07

「明日から食洗の担当だ」。平成17年7月、担当部長にこう告げられて、揚田は喜びをかみしめた。『ミニでか』食洗機には基礎研究の段階から開発に関わってきたが、量産化のゴーサインが出ないまま、この一年は他の開発に追われていた。苦労して形にしてきた製品だけに思い入れは深い。俄然、闘志がわいた。

置けなければ始まらない!

『ミニでか』構想の発端は、平成15年の夏に遡る。象印では平成10年に食器洗い乾燥機市場に参入して以来、三機種を発売。しかし売り上げは伸びず、とくに14年から発売した『日本の食洗』は大型化がネックとなり苦戦した。食器洗い乾燥機は、大手家電メーカーが競合する厳しい市場。それに対して、象印製品のシェアはこれまで1%にも満たなかった。社内では食器洗い乾燥機からの撤退も噂され始めていた。

企画を担当した杉山は、前機種の反省点を見直すところから取りかかった。「ちょっと大きすぎたんじゃないかな」自分自身、主婦の立場から台所をこれ以上狭くしたくないと思う。もっとコンパクトで、それでいて家族全員の食器を一度に洗える省スペースタイプの製品はできないだろうか。
省スペース化はユーザーにどのくらい支持されるのか、原点に立ち戻り、ユーザーから意見を聞こうと思った。インターネット調査を実施すると、食器洗い乾燥機を持っていない人が80%いたが、そのうちの80%が「興味がある」と答えた。興味があるのに購入しない理由の75%が「置き場がないから」だった。この調査結果によって、置けるサイズにさえすれば訴求力が高まることが裏づけられた。
さらに象印の生活アドバイザーの方々に実際に店舗に行ってもらい、店頭に並んでいる商品のなかからほしい機種とその理由を書いてもらった。この調査からは、ユーザーは店頭ですぐにこれと決めるのではなく、絞り込んでいく過程があることが明らかになった。ユーザーは最初に「設置性・大きさ」「容量」「扉の開閉」といった基本条件を確認して2〜3機種に絞り込む。次に「省エネ・経済性」「洗浄能力」「洗浄時間」などの決定条件を見てさらに絞り込む。ところが、象印製品は最初の絞り込みの時点で候補にあがらなかった。

候補に残るためにはこれらの条件を満たさなければならないが、なかでも「台所に置ける」という特長を前面にアピールできる製品を作らなければならない。杉山はそう確信していた。生活アドバイザーのグループインタビューを行ったとき、ある主婦がもらした一言が頭にあった。「…でも、食器洗い乾燥機は置けなければ始まらないですよね」。この言葉にすべてが込められていると思った。
サイズを検証するために、省スペースな底面積の実寸シートを生活アドバイザーに送って、置けるかどうか確認してもらった。アンケートの回答を集計し、いろいろ調べていくうちに、市販の食器かごのサイズが最も置きやすいことがわかった。市販の食器かごは、幅40〜45センチ、奥行き約30センチのものが多い。これと同じ底面積の食器洗い乾燥機を作れば、いま食器かごがある場所に置くことができる。
また、台所には水道の蛇口やガス栓、給湯器の操作パネルなどがあるため、置き場所はかなり制限される。これらを踏まえた上でサイズを設定して発泡スチロールのモデルを作り、生活アドバイザーの家を訪問して実際に置けるかどうか確認した。幅43センチ、奥行き31.5センチ、高さ58センチを象印が提案する新サイズとして打ち出すことになった。

課題は洗浄力の強化

平成15年秋に開発がスタートした。洗浄力の決め手となる噴射ノズルの設計を担当した揚田は、平成13年の入社。翌年四月から食器洗い乾燥機の担当になり、洗浄時間を短縮するために、他社製品を次々と分解してノズルの動きを研究した。入社3年目を迎え、仕事がますますおもしろくなっていた。
『ミニでか』の企画では、「六人分の食器を収納できる省スペース設計」という課題に加え、洗浄時間や節水の面でも業界トップクラスの性能を目指していた。これらを実現するためには、洗浄力の強化が欠かせない。洗浄力を高めるには、ノズルの設置位置や角度、噴射水の強さ、食器の収納場所など、さまざまな要素を考慮して設計しなければならない。食器配列は何十パターンも検討したが、収納性を重視した配列を採用すると、洗浄性能が落ちるというジレンマがあった。
食器に最も近い天地二か所に回転ノズルを置けば、なんとかなるかもしれない。揚田は再び他社製品の食器配列と回転ノズルの位置関係を調べ直し、最適な回転ノズルの軌跡を検証した。その上で構想設計を行い、試作モデルの洗浄テストをスタートさせた。

洗浄テストは汚れの付着方法や放置時間の規定があるため3時間はかかり、一人では一日に4回行うのが精一杯だった。限られた回数で効率的に検証・改良を行うために、テストの手順を一から見直した。テスト結果を記録するデータシートも、どこの皿のどの部分が汚れているのかが正確に把握できるように改良し、自分なりに工夫しながらテストを重ねた。
テスト結果を検証しては、ノズルに改良を加えていく日々が続いた。ユーザーが設定通りに食器を収納してくれるとは限らないため、背面と左右にもノズルを設置して、さまざまな角度から水を当てるようにした。それでも、わずかに汚れが残ってしまい、一日の終わりにテストで使った大量の皿を2時間かけて手で洗い直すのが日課だった。「なぜ手で洗わないといけないんだ…」実験室で食器を黙々と洗っていると、ひどく気持ちが滅入った。
洗い上がりがきれいにならない原因に、残留水の存在があった。洗浄に使った水はポンプから排出されるが、捨てきれなかった水が次工程の洗浄水に混ざってしまう。40分のスピード洗浄と節水洗浄を実現するために、ポンプの形状や運転フローを一から再検討して残留水を削減した。
こうして検証を行う間にも、他社の新製品が次々に発売された。それに対抗し、食器点数は40点から45点に、一回の使用水量も12リットルから10リットルに減らし、業界のトップレベルまで性能を高めた。背水の陣で挑むこの市場で、他社より劣る製品を発売するわけにはいかない。
ところが、量産化のゴーサインはなかなか下りなかった。大型商品だけに投資額も大きく、製造コストや販売価格などの面でも課題が山積していた。

みんなの心が一つに

平成17年7月、ついに『ミニでか』食洗機のプロジェクトが動き出した。揚田にとっては一年ぶりの食洗への復帰。『ミニでか』食洗機の開発を通じて自分自身が成長できたと感じていただけに、プロジェクトの発足が心底うれしかった。試行錯誤しながらのテストの日々、自分の目で確認し、自分で考え、工夫しながら開発することの大切さを学んだ。なんとしてでもこの製品をよい形で発売したいと思った。
プロジェクトには開発担当以外にも、資材調達や品質保証担当など多数の部署から十数名が参加した。商品開発部長が、構想設計の段階でコスト削減会議にメンバーを招集。全部品を一から見直して、形状変更や共通部品の活用など、考えられる限りのコストダウンを図った。
同時に営業サイドのプロジェクトも発足した。営業担当・販促担当・商品企画担当らのメンバーが集まり、売り方や販促物の展開から、量販店への店舗単位の販売目標まで緻密に戦略を練り上げていった。皆でアイデアを出し合い、裏面にユーザーの声を載せた原寸大シートなど、工夫をこらした販促物を制作。販売一か月前から展示用のパネルを量販店に置いてもらい、訴求を図った。

『ミニでか』食洗機の発売に向けて、杉山は会社全体が一つになったように感じ、それがなによりもうれしかった。「難しい条件のなかで、設計する人、生産について検討する人、部材調達する人。そして、POPやカタログ制作に何度も手を加えてすばらしいものを作る人、商品のよさを訴えるために販売店への勉強会の内容を工夫する人。行く先々、社内のいろいろな部門で、食器洗い乾燥機をなんとか成功させたいというみんなの思いを感じました。本当にこの商品のすばらしさを、少しでも多くの人に知っていただきたいと思います」
揚田は、「開発に関わり、様々な困難がありました。自信を喪失し、不安に駆られた時期もありました。しかし、目標に対して信念を持って取り組むことができ、それを実行する時間を与えられたことは非常に幸運だったと思います。『ミニでか』食洗機はプロジェクトメンバーみんなで考え抜き、悩み、苦労した…その結果、生まれた商品です」と開発を振り返った。


開発担当者
杉山 一美(左)
揚田 誠(右)
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