象印 ZOJIRUSHI

象印マホービンのとりくみ

開発秘話

主婦の心をつかんだ卓上コンパクトの夢 卓上コンパクトの巻 Vol.08

主婦の心をつかむ商品開発

昭和62年に登場し、ブームを巻き起こしたホームベーカリー。家庭で焼きたてパンが食べられるというコンセプトが、多くの主婦の支持を受けた。しかし、その後は一時のブームも去り、市場は低迷していた。平成に入り、食の安全性や健康への感心の高まりから、ホームベーカリー市場も回復傾向にあった。そんな中、象印もシェア拡大をはかり、様々な商品を開発していたが、大手家電メーカーが50%近いシェアでトップに君臨していた。シェア拡大のためには、主婦の心をつかむ魅力的な商品を開発するよりほかなかった。
「ほんとうにこの構造でいいのか?」。平成11年夏、ホームベーカリー開発メンバーの芝は、上司の問に視線をあげた。芝は11月の社内技術展にむけて、ホームベーカリーの小型化を検討していた。ホームベーカリーの難点はサイズが大きいために、置き場所に困るというところにあった。ユーザーからも、小さくしてほしいという声があがっていた。小型化が実現すれば、消費者ニーズにそった画期的な商品になるに違いなかった。

コンパクト化への挑戦

この日から、芝はコンパクトなホームベーカリーの開発に没頭した。従来のホームベーカリーは、モーターをパンケースの横側に置く構造になっている。モーター側の回転軸をベルトで連結して、大小の歯車のような要領で駆動させていた。
着目したのは、モーター上部の無駄なスペースだった。モーターをパンケースの下に設置して縦型構造にすれば、大幅な小型化が可能になる。しかし、縦型構造には大きな問題点があった。従来の構造は、二つの回転軸の距離がある程度離れていることで、安定的にトルクを伝えることができた。しかし距離が近すぎると、回転軸とベクトルの接触面が減少するため、歯車が空回りして動作が不安定になり、トルクが伝わりにくくなる。また、背が高くなり過ぎるという難点もあった。
無謀にも思えた構造だったが、図面上で試行錯誤を繰り返しているうちに、形ができあがってきた。上司に図面を見せて説明すると、手厳しい指示が飛んだ。「ただ細長くなっただけじゃないか!もっと低くしろ!!」。高さ30センチ程度、大きさは他社製品の約60%という具体的な数字を提示された。余分なところを削り、徹底的に省スペース化をはかった。使いやすさにも配慮して、ハンドルも取り付けた。
そして11月、技術展に出展されたホームベーカリーの試作品は、要望通りに約60%の小型化を実現していた。みんなの注目を集め、役員評価では3位の高得点をあげた。

商品化への結実

平成13年、商品企画担当の鎌田は、超小型ホームベーカリーの商品化への企画に取り組んでいた。象印が定期的に実施している生活アドバイザーのグループミーティングに出席し、主婦の意見を聞いてみた。アンケートを実施すると、ホームベーカリーを持っている人のうち半分近くが、あまり使っていないことがわかった。「出し入れが面倒」「大きく、重く、使いにくい」という理由からだった。その一方で、ホームベーカリーを持っていないがほしいと思っている人が45%もいた。「ほしい家電製品」の項目では、IH炊飯ジャーに続き、ホームベーカリーが2位だった。ユーザーが求める商品を提案することができれば、潜在需要を掘り起こせるのではないか。なんとしても、このコンパクトなホームベーカリーを世に送り出そうと思っていた。
さらに鎌田は、もう一つの問題点としてあげられていた「音が大きく、うるさい」という回答にも着目した。焼きたてのパンを朝食で食べるためには、夜間にホームベーカリーを作動させなければならない。深夜の騒音が敬遠されていることがわかり、静音設計の必要性を痛感した。

静音化の壁に挑む

商品開発は阪口が担当することになった。ホームベーカリーを手掛けるのは初めてだった。商品コンセプトは、コンパクト化と静音設計。
小型化については、芝が築いたシステムをそのまま踏襲すればいい。問題は騒音だった。騒音のひとつにベルトの作動音がある。まずは試作品を分解し、ギア(歯車部分)を観察することから始めた。試作品では、回転軸の距離が近すぎて歯車が空回りするという問題を解消するために、いったん離れたところにもう一つの回転軸を設けて、二段式で連結していた。しかしその分、駆動音も大きくなるため、この構造では静音化はむずかしかった。構造を考え直さなければならない...大きな壁に思えた。

こんなとき頼りになったのは、ホームベーカリー開発の経験がある先輩や同僚たちだった。頻繁にミーティングを開き、従来機種の問題点やその解決策などの適切なアドバイスをしてくれた。このときも、「ベルトの幅を広くしたらどうだ?」。というアドバイスが解決につながった。幅広のベルトを使えば、空回りが解消できて、トルクが伝わりやすくなる。ギア部品を組み立て、ベルトの太さや幅、材質、摩擦の度合いなどを変えて、さまざまな条件でテストを試みた。ベルトが太いと駆動音やコンパクト化に影響を与えるため、少しずつベルトの幅を細かく調整していった。ベルトの素材にもこだわった。その結果、従来機種に比べて9デシベルも低い48デシベルまで音を抑えることができた。

イメージの一新で、ヒット商品に

平成14年9月、業界一コンパクトなホームベーカリーが発売された。電気ポットとほぼ同じサイズのコンパクトボディ。持ち運びに便利なハンドル付きで、卓上で使うことをコンセプトに打ち出していた。
メニューにも通常のドライイーストコースに加え、天然酵母でパンが焼ける機能も新設されていた。これまでのホームベーカリーのイメージを一新する、画期的な商品だった。象印のホームベーカリーは、主婦の心をつかんで、業界でのシェアを拡大するこができた。
開発のなかで、阪口のはげみになったのは、自らが焼いたパンを食べた人々の「天然酵母パンは、ほんとうにうまい」。という実感のこもった一言だった。一緒にパンを食べつづけ、その出来に最後までこだわり続けた鎌田も、ついには納得してくれた。天然酵母メーカーの担当者が発した一言も強く印象に残った。「象印のパンのほうが、他社のよりもおいしいですね」。心に響く言葉だった。


開発担当者
鎌田 明博(左)
阪口 良一(中)
芝 健治(右)
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