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開発秘話

「しゃっきり」から「もちもち」まで理想のおいしさを食卓へ 可変圧力の巻 Vol.09

圧力IH炊飯ジャーの進化を目指して

平成8年に圧力IH炊飯ジャーを発売して以来、着々と圧力タイプの販売を拡大してきたが、高機能機種を次々と投入してくる競合他社に打ち勝つためには、圧力タイプの新機軸となる機能の開発が不可欠だった。平成13年4月、開発部では次年度に発売する圧力IH炊飯ジャーの企画案を検討していた。リーダーの坂口、設計担当の西山、炊飯フロー担当の大隈の三名を中心に、部内外の多くのスタッフが新製品の研究・開発に関わっていた。基礎実験を繰り返し、開発会議で性能やコストを検証しながら搭載機能を絞り込んでいく。高級化・差別化をはかるために、さまざまな案が検討されたが、そのほとんどが振り落とされ、「可変圧力」に機能が絞り込まれていった。
開発部では、よりおいしくごはんを炊くための圧力の進化型機能として「可変圧力」の研究を数年前から重ねてきた。ごはんのおいしさと一言でいっても、個人の嗜好や地域性によって、ごはんのかたさや粘りなどの好みは異なる。圧力を変えることで個人の嗜好や料理、お米の種類にもマッチした炊飯が可能になれば、より多くの人々に理想的なおいしさを提供できるわけだ。一方で、健康志向の高まりから玄米ブームが起こりつつあり、玄米をふっくらとおいしく、より短時間で炊飯できる高圧炊飯の訴求力にも期待が持てた。

課題の一つである玄米の炊飯時間の短縮。高圧の1.3気圧に設定した手作りの試作品で玄米を炊くと、一升炊きで通常90分かかるところを、目標の60分で炊くことができた。炊き上がりの食味テストでもふっくらやわらかく、坂口は満足できる基礎実験の結果に大きな手応えを感じた。入社10年、炊飯ジャーの開発一筋でやってきたが、自らが開発チームを率いるのは初めての経験。圧力タイプはIH炊飯ジャーのなかでも高い伸びが期待できるだけに、責任も大きい。いつも以上に力が入 った。

高圧の壁に挑む

その年の秋には企画が仕上がり、開発がスタートした。圧力炊飯には、電磁石を利用した圧力制御装置「ソレノイド」を従来機種から継承。可変圧力構造として、新たに圧力センサー、モーター、圧力調整弁を蓋の内部に設けた。釜内の圧力が設定以上に高くなるとセンサーが察知、モーターに指示を出してピストン式の圧力調整弁で蒸気口を開閉させ、圧力のレベルを調整する仕組みだ。新構造が加わったことで部品点数は従来機種の二倍近くに増えたため、まず各種部品のコンパクト化から進めなければならなかった。

平成14年2月に試作品が完成したが、部品のほとんどを新たに作ったことで、思いもよらないトラブルが次々と起こった。初の試作品では設計ミスが判明。可変圧力構造の圧力調整弁とセンサーの位置が逆になっており、金型修正に一ヶ月を要した。設計図を書いた西山にとって、忘れがたい失敗となった。入社3年目で開発業務はわずか2年。フルモデルチェンジは初めての経験で、試行錯誤の連続だった。

1.3気圧という圧力の壁は思いのほか大きい。従来の1.15気圧の荷重45キロに対し、1.3気圧では荷重90キロに跳ね上がる。試作品でテストを行うと、正規のルートを通らずにパッキンなどあらゆるところから蒸気が漏れた。シーラント(ペースト状の防水充填材)を塗ってテストを行うと、今度は高圧に耐えかねて蓋がひどく変形した。
一つひとつ課題を克服するしかない。蒸気漏れを防ぐために、パッキンの形状をすべて見直した。胴体部分には大きな金属の補強板を、蓋には補強リブを設置して強度を高めた。坂口と西山は連日、部品の追加や調整に追われ続けた。 圧力センサーにも問題点が浮上した。何度やっても玄米炊飯のときに1.3気圧を最後まで維持することができずにいた。1.3気圧を超えると圧力センサーが察知して蒸気を抜くが、圧力センサーの読み取り周期が長いために蒸気が一気に抜けて圧力が下がり過ぎることが原因だった。そこで、回路担当に依頼して、1秒かかっていたセンサーの読み取り周期を0.1秒にまで短縮。圧力の微妙な調整ができるようになった。

一方、4月から炊飯フローの開発に取り組んでいた大隈も、次々と起こる試作品のトラブルに悩まされていた。試作品はシーラントで防水加工していたが、それでもしばしば蒸気が漏れてテストが中断される。その度、近くの席でテストをしている西山に、応急処置を施してもらった。
開発期限は2ヶ月。メニューは14種もあり、無洗米コースのフローも考慮すると従来機種の二倍近くになる。しかも五合用・一升用の2サイズ分のフローをつくるため、急ピッチで作業を進めなければならなかった。大隈は、各フローごとに微妙な味の違いを出すために、多いときで一日に10回、約15キロの米をテスト炊飯して食べ比べた。品質評価や商品企画の担当者に相談しながらベストの炊きあがりを探り、ときには部内で炊飯品評会を行って皆の意見を拾い上げることもした。一人黙々とテスト炊飯と試食を繰り返しながら、フローを調整する日々が続いた。

経験とカンが勝負のカギに

5月、ついに量産試作品が完成した。約200台を試作で組み立てたが、部品点数が多いために通常二日のところ五日間もかかった。坂口と西山は生産ラインの調整に奔走した。さっそく試作品でテストをすると、蓋と胴体の接合部分からわずかに蒸気が漏れた。パッキンの取り付け方法を変更したのがネックになっていた。
このままでは量産に移行することはできない。坂口は蒸気漏れの原因を探りながら、パッキンの形状に修正を加えてテストを繰り返した。量産化業務に専念していた西山が、部署に戻ってくると一人でテストを行う坂口の姿があった。坂口はラストチャンスとなる本型発注時の修正に望みをかけていた。樹脂の歪みが蒸気漏れの原因ではないか。長年の経験とカンでピンとくるもがあった。今度こそ間違いない。歪みを想定した形状に設計変更して本型を発注した。

市場に浸透した「圧力=おいしい」

平成14年夏、真空内釜圧力IH炊飯ジャー『NP-AS』『NP-AA』が発売された。1気圧(100℃)から1.3気圧(107℃)まで、メニューに応じて炊き分ける「7段圧力」機能を搭載。象印独自の「玄米活性」や「発芽玄米」などの多彩な炊飯メニューに加え、省エネ効果の高い「真空かまど釜」も圧力タイプとしては初めて搭載され、高級機種としてのグレードを高めていた。

おいしく炊けるという評判は徐々に広まり、1年後にマイナーチェンジした『NP-AT』から売上は大きく拡大。雑誌での他社商品との比較で「総合評価ナンバーワン」の評価も得た。
平成17年には競合他社も次々に圧力IHに参入、「圧力=おいしい」というイメージが販売店やお客様に浸透し、圧力IHは炊飯ジャー市場の中で一つのジャンルとして確立されつつある。現在も圧力IHは象印の主力商品として成長を続け、その牽引力で象印の炊飯ジャー全体のシェアも拡大している。


開発担当者
坂口 洋一
西山 潤
大隈 英孝
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