象印 ZOJIRUSHI

象印マホービンのとりくみ

開発秘話

お米の甘味と旨みを最大限に引き出せ! パワー圧力の巻 Vol.10

圧力IH炊飯で定評のある象印の炊飯ジャーに、2007年秋、新たな技術を搭載した最高機種が登場する。「パワー圧力」という炊飯方式を導入し、従来と比べてお米の甘味と旨みをいっそう引き出すことに成功した新機種だ。その実現の源となったのが、小型ポンプで外気を取り入れて釜内部の圧力を制御する新技術「加圧エンジン」の開発である。新機軸とも言えるこの技術の誕生にも数々のドラマが秘められていた。

ふとした発見が大きなヒントに

片岡氏2006年春、象印では新しい炊飯ジャーの開発を目指して、技術者たちの努力が続けられていた。ここ数年、炊飯ジャーの市場では価格が5万円から10万円クラスの高価格の機種がぞくぞくと登場しており、活況を呈している。象印では、圧力IH炊飯ジャー『極め炊き』が安定した人気を得ているものの、高価格の商品はまだ発売しておらず、その開発が急がれていた。
さまざまなアイデアが出され、検討が繰り返された。だがどれも実現性に乏しく、なかなか「これだ」というものが見つからない。そんな閉塞状況のなか、開発担当の片岡は電気店でふとあるものに目を留める。それは家庭で使用される血圧計だった。「機械自体は小さいが、かなりの圧力をかけて血圧を測っているな。中にはポンプが使われているのだろうか?」
調べてみると血圧計は小さなポンプで圧力をかけていて、かなりのパワーがあることがわかった。現行の圧力IH炊飯ジャーでは沸騰後に発生する蒸気を閉じ込めることで圧力をかけているため、沸騰しなければ圧力がかからない。だが米のα化が始まるのは沸騰前の中パッパと呼ばれる70℃のタイミングである。「今までの圧力炊飯に加えて、α化の段階からポンプで強制的に圧力をかけられるようにしたら、面白いものができるかも知れない...」このアイデアが、新たな炊飯ジャー誕生のきっかけとなった。

数々の障害を乗り越えて

別枝氏ポンプによる加圧エンジンの構想を得た片岡がまず始めたのは、肝心のポンプを探すことだった。玩具用や金魚の水槽に入れるような安価なものはいくつもあるのだが、製品に搭載できるような品質のものは、全くといって良いほど見つからなかった。国内の小さなメーカーもくまなくあたったが、製品に採用するメドがたつにはほど遠いものばかりだった。
なかなか進展しない作業のなか、さらに悪いニュースが飛び込んできた。他社からポンプ付きの炊飯ジャーが発売されるという。象印とおなじく加圧する方式ならば、こちらはこのアイデアを捨て、最初からやり直しである。最悪の場合の覚悟を決めながら、加圧エンジンの開発は他社の全貌がわかるまでしばらく棚上げされることとなった。
その後、他社の新機種はポンプを使うものの、まったく別のコンセプトで作られていることがわかり、開発が本格的に動き出したのは翌月。その頃には、ようやく象印のベースでポンプを共同開発してくれるメーカーも見つかっていた。

だが、ポンプの開発を始めてからも、困難は続いた。製品に載せるとなると800時間から1000時間の寿命が必要なうえ、蓋の中に組み込むために耐熱性も必須となる。この2大要件である長寿命性と耐熱性がネックとなったのだ。
最初は、200時間くらいで完全にモーターが壊れてしまう状況の連続だった。ポンプの中だけでも、30あまりの部品が搭載されている。それらの部品を耐熱性の高いものに変え、一つ一つ試していくしかない。樹脂の材料やゴム部品などの素材を検討し、変更を重ね、モーターも耐久性の高い高性能のものに変える。何度も耐久試験を繰り返す日々が続いた。

一方で、部品に使われているオイルの安全性を調べるといった細かなフォローや、炊飯性能の検証なども進められた。こちらは別枝や他のメンバーが担当した。炊飯性能の検証は東京農大の研究室に依頼。炊飯ジャーの試作品を作っては東京へ送り、データをもらうことを繰り返した。沸騰前の中パッパ行程での圧力をかけるのと同時に、蒸らし行程でもポンプによる圧力をかけることもフローに入れ、最も美味しく炊ける行程を根気よく見つけだしていく。

パワー圧力の炊飯フロー

試行錯誤の日々だったが、片岡や別枝はポンプを使った初めの頃の実験で、ごはんの様子が違うことに気付いていた。今までにない粘りがあるまるで餅のようになったごはんが炊きあがったのだ。やはり目論見通り、α化が始まる中パッパ行程で圧力をかけると差が出ることは間違いないのである。あとは、美味しく炊ける行程を見つけ出してやればよい。新技術への思いは確信へと変わり、新たな原動力へとなっていった。

予想通りの成果を得て製品化へ

中パッパ直後のごはんつぶ断面の電子顕微鏡写真。パワー圧力ありは、デンプンの粒が大きく崩れ、パワー圧力無しとの状態の違いがハッキリと確認できます。炊飯性能で良い結果が出る頃には、季節は秋を迎えていた。東京農大から届いた顕微鏡写真では明らかに従来の炊飯と比べて米の澱粉は細かく分解されており、甘味や旨みがより引き出されていることが分かる。また、溶出還元糖量のデータも従来より20%アップしていた。もともと象印の圧力炊飯ジャーはコシヒカリのようにもっちりとした食感で普通米でも美味しく食べられるよう炊きあがるのが身上だが、そのうえ加圧エンジンのパワー圧力によって、さらに甘味と旨みが引き出されていることが実証された。炊飯試験での味や食感に手応えを感じてはいたが、やはり顕微鏡写真やデータではっきりとした裏付けがあるのは心強い。感動の一瞬だった。

9月には会議で企画が正式に決定し、翌2007年秋の発売が決まった。当初、パワー圧力の搭載は1機種だけの予定だったのだが、サイズ違いも含めて4機種の新作が発売されることに決まる。加圧エンジン以外にも新しい釜を採用したり、操作パネルに業界初のタッチパネルを搭載するため、こちらの開発も同時に進められることとなった。象印の炊飯ジャーを代表する最高機種にふさわしい充実の装備だが、どれも従来製品には無い初めての試みばかりとなる。企画が決定し、本格的な開発がスタートすると、次々にトラブルも発生した。ポンプもまだまだ改良が必要だった。ポンプの生産現場でトラブルが発生するたびに、片岡は工場のある長野へ何度も車を走らせた。

また炊飯フローも、炊き分けメニューや炊飯容量などのさまざまな条件で、粘り強く炊飯試験が繰り返されていた。
「膨大な試験の数になりましたね。その他の機種の試験もあわせて、多いときには1日50kgも米を炊いたこともありました」と、別枝は当時を振り返る。最適なフローを見つけだした後も、さらに微調整を繰り返して精度を高め、究めていく。こうした細やかな調整は、翌年の発売ぎりぎりまで続けられた。

この秋、いよいよ販売開始

渡利氏2007年秋にはいよいよパワー圧力を搭載した真空内釜圧力IH炊飯ジャー「極め炊き」(NP-LS型)を始めとする4機種が店頭にお目見えする。
発売を前に、電気量販店や大型スーパーなどの販売店向けの商品勉強会などで試食をしてもらっているが、反応は上々だ。
商品企画部の渡利も確かな手応えを感じている。「まず何より美味しいと評判が良いですね。真空かまど釜もさらにグレードアップして遠赤セラミックコートが施され、本物の炭と同等の遠赤効果も実現しました。それにタッチパネルも、業界では始めての試みですから注目されています」。

業界初のタッチパネル。機能キーを押せば、ボタンが光って浮かび上がる、タッチパネル。

片岡と別枝は口を揃えて言う。「炊飯ジャーの最上位機種でしかも新規の商品になると、私たちにとっては大変ハードルの高い商品ですから、全員で取りかからないと、とうていやりきれない内容でした。第一開発部のみんなが協力してくれたからこそ、完成した商品です。みんなで助け合いながら一丸となって、いい仕事ができたと思います」。多くの技術者たちの創意と努力が生んだ炊飯ジャーは、もうすぐ日本の食卓に幸せを運ぶことだろう。

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開発担当者
渡利 康雄 YASUO WATARI片岡 利充 TOSHIMITSU KATAOKA別枝 篤司 ATSUSHI BESSHI
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