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開発秘話

売上げ目標100万本!こだわりが生んだ人気No.1マグ ステンレスマグ『TUFF』の巻 Vol.13

エコブームやデフレによる節約を背景に、マイボトルに飲物を入れて携帯する人が増えている。なかでもタンブラーやマグの人気は高く、売場にはさまざまなブランドの製品が色とりどりに並ぶ。そんな市場で爆発的人気を獲得しているのが象印の「ステンレスマグ『TUFF(タフ)』SM-JA型」だ。ヒットの裏には、企画からデザイン、製造にいたるまでの作り手たちの熱い思いと奮闘があった。

目標は日本で一番愛されるマグ

「ステンレスマグ SM-JA型」の開発が始まったのは2009年の夏。当時象印はステンレスマグのカテゴリーでは業界トップクラスであったが、会社を代表するようなヒット商品を生み出せてはいなかった。今回からはじめてボトルの企画を担当することになった北村がまず気になったのもその点だった。

北村「象印は何モデルもの寄せ集めでシェアをとっているだけで、1モデルで大きく数を取れるものが無かったんです。そこで、今度手がけるマグは『マグといえば象印のSM-JA型』と誰もが即座に思うような象印ブランドを代表する製品にしたい、売上げナンバーワンのライバル製品に宣戦布告となるような商品を出したい、と考えました」
こうしてステンレスマグの目標が決まった。それは1モデルだけで国内外売上げ100万本を達成すること。100万本を達成すれば、それは間違いなく業界1位のヒット商品となる。この旗印のもと、企画、デザイン、開発がそれぞれに動き出した。

「何故売れるのか?」を徹底的に探る

まず北村とデザインを担当する月田が取りかかったのが、市場で最も売れているライバル製品の分析だった。何故売れているのかをマーケティング調査し、理由を探るのだ。営業などからも情報収集をしながら、その製品のどこが良いのか、社内外にアンケート調査を実施した。結果、形状はとくに評価されておらず、見た目の色柄、特に質感が人気の秘密であることが分かってきた。ここで象印新製品の開発ポイントに焦点が定まる。他社のどこにもない「質感」と「色」を作り出していこう、と方針が固まった。
また、こうした質感、色柄といった高いデザイン性以外に、「軽量・コンパクト」と「使いやすさ」も必須である。どんな形状が持ちやすく視覚的に格好が良いのか、数多くのサンプルを作り、検証のためにまた調査を行った。工夫して作ったサンプルをさまざまな社内の人に握ってもらい、アンケートを取る。その結果、やはり「スリムであること」がかなり重要なポイントであることがはっきりした。

従来品とのふたの高さ比較 (左)当社従来品 (右)SM-JA型またこのとき、開発部門から「分解せん」の提案が出された。せんを分解することで洗いやすくなり、「使いやすさ」の条件が満たされたのだ。しかもこの方式は一部構造上の制限がなくなり、全体の高さも低くできるという利点も備えていた。こうして新商品は、スリムでコンパクトな形状、質感のある色という高いデザイン性と、使いやすさ(分解せんと樹脂製の外せる飲み口)を兼ね備えた現在の仕様に絞りこまれて行った。

開発部門全体で改良に取り組む

開発を担当した江木によれば、今回は開発部門のメンバーが総掛かりでアイデアを出しあい、知恵を絞ったのだという。「企画が動き出してすぐに、魔法瓶関連の技術者が集まり、今あるマグをさらに改良できないかと話し合ったんです。従来品のステンレスマグでは、部品の細かなところまで洗うことができないという問題点があったのですが、「クールボトル」(保冷専用タイプ)では分解せんを採用していたので、今回もせんを分解して丸洗いできる案が考え出されました。」しかし、ステンレスマグにおいては他社にも例はなく、独自の方法を考え出す必要がある。ネジで固定したり、複雑な構造を用いたり、江木たちは試行錯誤を繰り返した。
分解せん分解せん分解せん

また江木は、コンパクト化のために、本体の設計もすべて一から見直した。瓶の中にある真空のスキマを極限まで小さくし、従来よりコンパクトでありながら容量を増やすことに注力したのだ。たった0.5ミリ変化するだけでも、デザインとの間で細かなやりとりが何回も繰り返され、ベストの形状が追究されていった。

こだわり抜いた「色」と「質感」

マグの形状が絞られる一方、見た目の追究も始まった。北村によると、開発当初から柄物は考えていなかったという。「従来品だと柄は象印の個性でもあったのですが、やはり好き嫌いがあります。100万本売るためには、好き嫌いがあってはいけませんので、今回はシンプルイズベストの路線で行こうと決めていました」

代わりにこだわり抜いたのが質感と色である。どんな質感と色が大衆に好まれ、愛されるのか。そこを探るため北村と月田はまず対象者である「人」を調べはじめた。「目標の100万本を売るためには、その100万人それぞれにもちろん色々なライフスタイルがあるのですが、それを意識動向が載っているカラートレンド情報誌などを参考に、大きく5つくらいに分類して、ライフスタイル調査をしたのです。こんな暮らしの人はどんな物を持ち、それがどんな素材か、色なのか、何故それが好きなのか、というのを調べました」

大阪の本社、工場、東京支社や大学、さらには新宿や渋谷の路上などでアンケート調査すると、男性はシンプルでカッコいいもの、女性はエレガントなものといった風に、だいたいの傾向が見えてきた。では、その人たちのニーズの本質は何だろうか。今度はライフスタイル別の対象者が気に入って持っている化粧品やカバンなどの持ち物をかき集めた。そうすると、男性なら革、アルミ、チタン等の素材を表した「マテリアルなカラー」を好み、純で混ざりけがなく、シンプルな強さ、かっこよさを求めていた。女性はそれを持つことで自分がキレイに見えるかどうか、他人からどう見られるかが質感、色を選ぶポイントだった。輝きあるシャイニーな質感など「メイキングカラー」を好むニーズが見えてきたのだった。

塗装を担当するタイの工場へは、企画、デザイン、開発のスタッフで現地におもむき、直接話しをした。電話だとなかなかもらえない情報も顔を付き合わせて話しをすると、新しい塗装を教えてもらえたりと収穫があった。月田は身の回りにあるもの、過去に検討したものを参考にしながら塗料の資料を集め、事前にタイの工場で塗装モデルを作ってもらっていた。質感、カラー別に合わせるとサンプルの数は60種類ほどにのぼった。

ロゼ、赤、シルバー、黒そこからターゲットのニーズと照らし合わせ12〜13本に絞り、再度アンケート調査を行った。今度の対象者は20代から50代まで幅を広げた。こうして幾度もの調査と分析を経て、最終的に落とし込んだのが、ロゼ、赤、シルバー、黒の4色だ。マットであったり、シャイニーであったり色ごとに質感もまったく変えた。今まで質感は同じで色だけ変えるというのはあったが、これは初めての試みである。だが、これこそが「人」から調査を進めた成果だったのだ。社内では不安視する声もあったが、北村は「人から入って質感と色を決めると絶対にこうなる」と確信を持っていた。

月田は、最終の色が決まってから、もう一度タイの塗料工場へ乗り込んで、最後の最後まで理想とする色と質感をつきつめた。
「タイの現場にもこちらの作り手の気持ちが伝わっていたと思います。色自体は無難な色なのかも知れませんが、カメラのピントを絞り込むように、それぞれの人のニーズに焦点を合わせこんだ色は、深い意味を持つ、あきがこない持続可能な色だと思っています」

熱いこだわりと量産化の壁

今回のマグにはキャップにステンレスのリングが巻かれているが、これこそが担当者たちのデザインに対するこだわりを象徴するパーツであると言えるだろう。普段であれば余分なコストがかかるアクセサリーを取り付けることに躊躇したかも知れないが、今回は全く違った。「これは必要なパーツである」と企画、デザイン、開発にかかわる全ての人間が確信を持っていたのだ。メッキにしたり転写シールにするなども検討したが、やはりターゲットの立場に立って見れば、必要とされるのはステンレスの本物の質感だった。そのためにどんなに手間隙が増えようとも、デザインも開発も、現場はもちろん部門長たちまでも、一切妥協をしなかったという。誰もが同じ目標に向かってぶれることが無い。いかに社内が一丸となっていたかが伝わってくるようなエピソードである。

限定色さまざまな技術者たちの努力が実り、100万本の売上げを狙う渾身作の仕様が決定したのは2010年の夏。4色のマグは0.36Lと0.48Lの2種類の容量で合計8本のラインナップとなった。また、人気のあった別カラーの4色が、営業の努力により新たな販路を獲得し限定ルートで売り出されることになり、合計16本の生産が決まった。

そこからは最後の難関が江木を待っていた。量産化の壁である。月田からは細部までこだわって調整し、絞りきった質感と色の指示が来ている。しかし塗料は少しのことで発色が微妙にぶれてしまう。ボトルの大きさが違うだけでも、塗料は目には見えない範囲で変化するのだ。量産化するにはこうしたことをクリアして、安定して色を出せる工法を見つけてやらなければならない。そこで江木は、色ごとに、大きさごとに、1つ、1つ、合計16種類の製品の塗装法を確立して行った。

江木「一番苦労したのはピンクで、何度もやり直しました。塗装はもちろん、組み立て方にまで工夫を重ねて、やっと安定させることができたんです」
また、黒の塗料は、指紋がつきにくい工法を開発した。月田が最終的に塗料を決めた後も、さらに良くしようと工夫を重ね、最後の最後に生みだした色だった。

物づくりの姿勢を変えた「100万本」の目標

こうして誕生した「ステンレスマグ『TUFF(タフ)』SM-JA型」は、発売以後驚くような快進撃を続けている。2011年9月を待たず、目標の年間売上げ100万本を達成するのは間違いない見通しだ。一番人気があるのはロゼだが、すべての色がまんべんなく売れているという。これも調査を重ね、ターゲットをきちんと振り分けられた成果である。

月田月田は当初、100万本を売る商品を実現するには今までの物づくりのアプローチでは通用しないだろう、と考えていた。社内の誰もが1モデルで年間100万本を売り上げる商品を開発した経験がないからである。
「自分だけ、デザイン室だけの力ではなく、営業から生産の現場までの全員の力をデザインに注入するくらいでないと、100万本の実現は難しいと思ったんです。逆に言うと100万本という数値目標があったから謙虚になれたし、企画や開発と一丸になれたと思います。数字が物づくりの姿勢を変えるパワーになることを実感しました」

北村も頷く。「これは関わってくれたみんなの気持ちが詰まった製品です。最後までみんなが諦めなかったからこそ、ここまでの物ができたと思いますね」
作り手全員の思いがこもった製品が大勢の人々から愛される製品となったことを喜びながらも、北村の視線はもうずっと先を見つめている。
「100万本売れたからといって、シェア1位になれたからといって、ここで止まってはいられないな、という気持ちです。携帯電話みたいに、新しい製品が出たらまた欲しくなる、そんな製品に育てて行きたいですね」
次はどんな魅力的な製品が登場するのだろう。これからも進化を続けるステンレスマグから目が離せそうにない。

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開発担当者
月田 基義 MOTONORI TSUKIDA(左)
北村 充子 MICHIKO KITAMURA(中)
江木 功平 KOHEI EGI(右)
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