象印 ZOJIRUSHI

象印マホービンのとりくみ

開発秘話

「南部鉄器」で素材を極める 南部鉄器 極め羽釜の巻 Vol.14

象印の総力を結集し、昔ながらのかまど炊きの美味しさを実現した炊飯ジャー「極め羽釜」が誕生して1年、さらに美味しさを追究した新製品が登場する。
それが「極め羽釜」の形状はそのままに、内釜の素材にとことんこだわった「南部鉄器 極め羽釜」だ。鉄釜が生み出す大火力で炊いたごはんの味わいは発売前から注目を集め、試食の結果も大変好評である。
100%純粋な鉄器による炊飯ジャーの内釜は業界初。どのメーカーも成しえなかった快挙の背景には、次から次に起こる問題を一歩一歩解決していく開発者たちの地道な努力と、妥協を許さない品質への熱いこだわりがあった。

次なるチャレンジは、鉄という素材

昔ながらのかまど炊きごはんを再現して爆発的なヒット商品となった高級炊飯ジャー「極め羽釜」が発売された2010年秋、開発メンバーはすでに新たなる挑戦に着手しはじめていた。
「極め羽釜」は、炊飯ジャーのトップブランドとして培ってきた今までの技術の積み重ねをいったんゼロに戻し、「どうしたら美味しいごはんが炊けるのか」ということにこだわって形状や性能を一から生み出したもの。この開発を通して、メンバーの間ではおのずと次の目標が見えていたのである。
それは炊飯ジャー内釜の「素材」。昨年のモデルで形状と性能を追究した次は、素材を極めたい。そこで着目されたのが日本に古くから伝わる羽釜の素材である鉄だった。かまどごはんの美味しさを再現した「極め羽釜」だからこそ、伝統的な鉄釜を採用する意味は大きい。昔ながらのかまどと羽釜で炊いたごはんに、よりいっそう近づくことにもなるはずである。また、鉄の発熱効率と熱容量の高さはIH方式にも最適であることも分かっていた。

野間だが、開発を担当した野間は、この理想的にも思える鉄という素材がかなりの強敵であることも充分承知していた。実は象印では極め羽釜を開発する4年前から内釜の素材として鉄、中でも特に南部鉄器に着目しており、当時開発を担当していたのも野間だったからだ。
「羽釜の形状も生まれていない頃ですから、普通の炊飯ジャーの内釜の素材を南部鉄器にしてはどうか、と検討していたんです。その頃はまだ技術力も熟しておらず、協力工場にも巡り会えていなかったので、やっぱりなかなか難しいのが実情でしたね。今回100%純粋な鉄素材の内釜を出すのは業界初なんですが、裏を返せばそれだけ開発のハードルが高いということでもあるんです」 大変さを経験しているだけあり不安もあったが、一度取りかかったテーマを再び担当させてもらい、自分でけじめをつけられるのはありがたいことである。野間はリベンジを胸に新たなチャレンジに燃えた。

南部鉄器南部鉄器とは岩手県の水沢や盛岡を中心に作られている伝統工芸品の鉄器で、地域一帯は日本有数の鋳造(ちゅうぞう)技術を誇っている。やはり鉄を採用するなら南部鉄器以外には考えられない。野間は何度も岩手に足を運び、協力してくれる鋳造工場を探して回った。だがやはり、簡単には行かなかった。最初から無理だと断られるところもあれば、トライしてみたけれど数があがらない、コストが合わないなどの問題が発生するところばかりで、なかなか条件のあう工場が見つからない。
一緒に動いたマネージャーの山根によると、協力工場選びの条件は伝統工芸に裏打ちされた確かな技術力と同時に、量産力が重要だったという。

「技術力と量産性のバランスが難しいんです。それぞれのご家庭でガス火で炊くぶんには、1つ1つの製品が良ければ、全製品の仕上がりに少々ばらつきがあっても問題ありません。しかし、電化製品に使用するのにそれでは困ります。炊飯ジャーは綿密に作り上げたフローに従ってお米を炊きますので、内釜の状態にばらつきがあるのは論外なんです。それにもちろん、電化製品の生産に対応し量産してくださるところというのは必須条件です。そこで、手作り感を残しつつ技術力があり、量産化に対応してくれる鋳造工場を探しました」
苦労のかいあって理想とする工場と出逢えたのは11月頃のこと。商品化を検討してからすでに数ヶ月が経過していた。

こだわりが生んだ規格外の工法

山根熱効率では優等生の鉄だが、ひとつ大きな課題となる特性も持っている。それはサビの発生である。山根と野間がとくに注意を払ったのもこの問題で、サビを防止するコーティングはとても重要な工程だった。購入者がどのように使用しても、内釜が欠けてサビが発生することは絶対に許されない。はじめは普通の塗装なども検討したが、さまざまな試行錯誤の結果、外面にはホーロー、内面にはフッ素加工をほどこすことに決まった。
そうすると後工程のホーローがけをスムーズにするために、釜の鋳造にも細心の注意が必要となる。
「品質のチェックは相当シビアだったと思います。鉄器の常識では問題のない範囲でも電化製品としてはアウトなんです。鋳造工場さんには、『購入された方に長い期間炊飯ジャーを使っていただくためには、やはり妥協はできません』とお話しました。鋳造工場さんも初めてのことなのであまりの厳格さに最初は驚いておられましたが、だんだん理解してくださり、自分たち自身でも厳しい目でチェックしてくださるようになったんです」

その結果が、鋳造のサイズに現れている。完成品の鉄釜が1.8キロなのに対して、削り出す前の段階ではなんと20キロの鉄を使い鋳造されているのだ。試作を繰り返すうち、分厚くすればするほど品質が安定することが分かったためである。
本来鉄器は完成品に近いレベルで鋳込む。削れば削るほどコストがかかるし、時間もかかるぶん生産数も減ってしまうからだ。そこから考えると、これは南部鉄器の常識では桁外れの規格だ。しかしこれも試作を繰り返すうちに「ちゃんとしたもの作ろう」と鋳造工場が率先してここまで大きく鋳込んでくれたのだという。
「初めは厳しい要求に驚かれていましたけれど、最終的には非常に協力していただいて、本当にありがたかったですね」
鋳造工場との二人三脚で作り上げた羽釜は、後工程で何か問題が発生するたび微調整が何度も行われ、少しずつ精度が上がっていった。こうして、商品化を検討してから約半年、ようやく南部鉄器による内釜のメドがつき始めたのだ。
1,一つの釜に対して一つの砂型を用い、高温で溶かした鉄を流し込みます。2,熱が冷めて、固まってから砂型を割ります。3,砂を払って、釜の形を整えます。これが羽釜の原型です。
4,一つずつ旋盤にかけて釜の内面、外面を切削し、徐々に極め羽釜の形状に加工します。5,炉の中に入れ、約800℃の高温で不純物を取り除きます。その後、表面に塗装、防錆加工をして、「南部鉄器極め羽釜」の完成です。

粘り強く問題と戦う

一方、鋳造の工程と同時に、ホーローの工程でも試行錯誤が続いていた。まずぶつかったのは輸送の問題である。鋳造工場のある岩手から大阪にあるホーロー工場までの輸送中に、サビを発生させないための工夫が必要となったのだ。メーカーに相談し、いろいろ打ち合わせを重ねた結果、防錆紙で包んだあとに袋でくるむという重装備で運ぶことになった。

もちろんホーローの仕上がりも、割れやカケ、サビの原因にならないよう膜厚が均一でなければならないため、こちらも厳格なチェックが行われる。そうしたなか、発生したのが製品の変形だった。ホーローは800度の火力で焼き付けるのだが、高温のために釜を取り付ける「治具(じぐ)」という道具が熱で変形してしまい、製品の寸法に影響を与えてしまったのだ。この問題を解決するため、山根は何度も工場に足を運び、20パターン近いさまざまな治具を提案したり工夫したりして、工場の担当者と一緒に精度を高めていった。
今回協力をお願いしたホーロー工場も、電気製品の製造ははじめてだった。ホーロー製品の世界では許容範囲であるコンマ2ミリの精度を求めることに最初は驚いた様子だったものの、やがて理解して協力してくれたという。普段の生産もあるので、試作時の調整作業は先方の業務の合間を狙い、深夜や休日に行われた。休日には人手が足りないため、先方の担当者の娘さんが作業を手伝ってくれたこともあったという。
こうして山根はホーロー工場の協力のもと、さまざまな苦労を重ねて寸法、精度、膜厚とすべての条件をクリアする塗装の実現にこぎ着けた。

ついに実現! 鉄釜で炊いたごはんの美味しさ

さまざまな工程の問題をひとつひとつ解決し内釜が完成されていくのと平行して、鉄器に対応した炊飯フローの開発が進められた。内釜が変わるとフローは全くの別物になるため、一からの作業である。鉄器は同じワット数でも熱容量が高く大火力を実現するため、従来のようなフローで米を炊くと温度が上がりすぎて、ともすればごはん全体がお焦げばかりになってしまう。フローの担当者は何トンもの米を炊き続け、炊き上げの火力や時間、余熱で蒸らす時間などを工夫し、研究を重ねた。こうして、大火力ならではの炊飯方法が確立し、鉄釜で炊いたかまどごはんが見事に再現されたのだ。
もちろんごはんの味わいはすこぶる好評だ。山根が語ったエピソードからもそれがよくわかる。

「『ここまで頑張っていただいたので、ぜひ食べてみてください』と鋳造工場に試作品を送ったのですが、わたしが伺ったときに天日干しで無農薬という最上級の米を用意し、精米したてのものを事務所で炊いてくれたんです。現場での打ち合わせを終えて試食のために事務所に戻ると事務の女性が『大変です!』って言うんですよ。何かトラブルでも起きたかと一瞬肝を冷やしたんですが、その後に『めちゃめちゃ美味しいんです!!』と言われたんです(笑)その場にいた皆さんも美味しい美味しいと喜んでくれて、工場のスタッフやたまたま荷物を届けにきた配達のお兄さんにまでお裾分けして食べてくれました」

野間も試食した人たちの反応を見て、手応えを感じているのだという。
「前回の極め羽釜とはまた違った方向性の味わいが実現できましたね。鉄器ならではの香ばしいおこげも好評ですし、協力会社はもちろん、バイヤーさんや量販店など売り場の担当者さん、マスコミの方など、試食してくださった方はもう皆さん口を揃えて『うまいなあ』と言ってくださいます。うまい、うまいとガツガツ食べてくださるのが、美味しい証拠だと思っています」
試作中の炊飯ジャーからただようごはんの香りに、かつて釜で炊いたごはんを食べていた経験のある山地本部長が「この匂いや!」と断言したこともあったという。新製品が鉄釜で炊いたかまどごはんの実現に成功することを、そのとき香りがすでに証明していたと言えるだろう。

開発に携わった大勢の人々の思いが結実した新製品『南部鉄器 極め羽釜』が世に出るのは2011年10月21日。2人が話す通り驚くほどに前評判が良く、早くも営業から期待の声があがっている。
振り返ってみれば、次々に発生する問題をひとつひとつクリアした結果、はじめに素材を鉄に決めたときの狙いをそのまま形にすることができた。そしてそれが実現できたのは、一緒に釜を作ってくれた各工場の惜しみない協力があってこそだと、2人は口を揃える。
「今は発売を前にして、営業が要望する数を間に合わせることに集中しています。せっかくこれだけ好評ですので、数を用意してあげられないと我々の役目を果たしたことになりませんから」
嬉しい声に後押しされつつも、決して気を緩めることはない。より多くの人々に「南部鉄器 極め羽釜」の美味しさを届けられるよう、開発スタッフの戦いはまだまだ続くのだ。

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開発担当者
野間 雄太 TAKEHIRO NOMA(左)
山根 博志 HIROSHI YAMANE(右)
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