象印 ZOJIRUSHI

象印マホービンのとりくみ

開発秘話

ふとん乾燥機からマットとホースを無くせ! ふとん乾燥機『スマートドライ』の巻 Vol.15

通販限定で販売され、記録的なヒット作となった象印の新製品が、2013年9月いよいよ店頭販売される。それは、マットとホースを無くした画期的なふとん乾燥機「スマートドライ」だ。目からウロコの便利さで圧倒的な支持を得た革新機は、今では生産が追いつかないほどの人気を呼び、通販サイトの口コミでも高い評価を得ている。象印の新たなレジェンドとなったふとん乾燥機はどのように生まれたのだろうか。

「本当にこれだけ?」上司の高い要求がきっかけに

岩本1998年に生産終了となったふとん乾燥機への再参入を象印が検討したのは、2010年はじめのこと。ふとん乾燥機は年間40万台規模の市場があり季節を問わずコンスタントに売れている商品で、どちらかというと秋から冬に売上げがあがる調理家電の多い象印にとって魅力あるアイテムだった。だが後発で参入するならば、現行他社を凌駕する目玉が必要となる。

そこで、開発担当の岩本と岩田がまず取り組んだのが、面倒なマットを収納しやすくすることだった。機械の大きさを変えずに収納スペースを広げることも試みたがあまり劇的な変化が無かったため、マットをたたみやすくすることに着目した。マットに心棒を入れて折りたたみやすく工夫することで、現行他社製品で約1分かかる収納時間が約3割削減できた。これで商品化できるだろうと新規商品開発の会議で「折りたたみの改善はこの方式にします」と報告したところ、事業部長の厳しい発言がとんだ。
「本当にこれだけ?」
このままでは後発メーカーとして、あまりにインパクトがなさすぎる。「“ワン・ツー・スリーで収納”というくらい収納時間を短くできないのか」というのが事業部長の意見だった。
「マットをたたむ行為だけでどうしても10秒超えてしまうので、どう考えても“数秒”は実現できないのです。そこでいろいろ悩んだ結果、マット無しでやってみようと思いました」と、岩本は振り返る。

そして考えたのが、マットの代わりに折りたたむ必要のないアタッチメントをホースの先につけ、ふとんに差し込む方式だった。やってみると温まりの偏りはあったものの、改善しだいでは使い物になりそうだ。しかし次の会議ではそれさえも粉砕された。
「なんでホースなんかつけてるんや。ホースも片付けるのに時間がかかるんと違うか?」
確かにその通りだった。それまで、世の中のふとん乾燥機にはもれなくすべてマットとホースがついていたため、知らず知らずのうちに固定観念にとらわれてしまっていたのだ。

そこでゼロから形状を考え直し、マットもホースもない箱だけの形を検討してみることになった。測定してみると意外なことに、マットつきのものより2割ほど性能が落ちるだけだった。これなら商品化できるかも知れない。岩本と岩田の2人に希望の光がさした。岩田は当時をこう振り返る。
「マットとホースが無いのは画期的ですし、この商品には非常に大きな可能性を感じました。でも、今までにない方式への挑戦になりますから、本当に商品化できるのだろうか、という不安もありましたね」
こうして、マットもホースも無い全く新しいふとん乾燥機の開発が本格的に動きだした。試行錯誤を繰り返すうちに、季節は秋を迎えようとしていた。

ねばりづよく、あきらめず格闘する

山根マットとホースを無くした結果、ふとんをすみずみまで温めるためには吹き出し口をふとんの奥にまで入れる必要がある。だが機体の背が高いと使いにくく収納もしにくい。そこで吹き出し口は折りたためるスタイルに決まった。企画担当と相談しながらデザインを決めているうちに「折りたたみの角度を自由に固定することができたら、ふとん乾燥以外にも自由に使えることができるのではないか」というアイデアも生まれた。年が明け、春になる頃には実際にさまざまな家庭のさまざまなふとんでテストするため、いくつかの試作品も作られ始めた。
そして企画担当の西は実際にふとん乾燥機を使っている主婦を集め、6名ずつ4回のグループインタビューを行なった。マットもホースも無いふとん乾燥機を見せるなり「おおー!」と歓声があがった。「いつ発売されるの?」「すぐ買うわ」と反応もすこぶるいい。
「通常のふとん乾燥機の価格帯は7000円くらいなんですが、皆さんに『いくらで買っていただけますか?』と尋ねたところ『12000円〜15000円でも買う』『それ以上でも買う』という意見がでたんです」高くても良いものは買ってもらえるのだ。「これは行ける!」と、西は強い確信を得た。

一方、試作機でのテストを繰り返すうち、岩本は大きな壁にぶつかっていた。四角い箱形の乾燥機の吹き出し口をふとんに差し込むと両端に隙間ができ、そこから温風が戻ってしまい足元まで温めることができないのだ。はじめは両端にバーをつけて隙間がなくなるようにふとんを上から抑えることも考えた。だがせっかくふとんをふっくら乾燥させるための機械なのに、わざわざ上から抑えるのも本末転倒である。そこで考えたのは、吹き出し口の断面が台形になるよう両端を斜めにカットし、ふとんを添わせる方式だった。しかし、そうすると試作機で採用していたファンは入らなくなってしまうし、送風のためのスペースが減ってしまうため風量も落ちてしまう。
「ふとんを添わせるために吹き出し口を台形にするということは、今まで積み重ねてきた内部の設計をぜんぶ諦めるということでした」
しかしやはり、ふとんを足元まで温めるにはこの形状がベストだ。結局、岩本は今までの設計をぜんぶ捨て、吹き出し口の形状を台形にすることを選んだ。勇気のいる大きな決断だった。
あとはまた一からの作業だった。風量を下げることはできないので、大きなファンの代わりに小さなファンを2個、モーターの両側に配置した。ファンを自分で切削したり、モーターを試作して回転数を限界まであげるなどして、小さくなってもパワーを落とさない方法を根気よく探って行く。さまざまなパターンを考え、テストし、2ヶ月かけてようやくベストの設計を見つけることができた。

南部鉄器一方、岩田はひたすら安全性の確保の問題と向き合っていた。何しろ前例がまったくない、この世に初めて登場するふとん乾燥機である。各家庭でどんな使われ方をするのかもまったく予想がつかない。誤ってふとんの上から踏むこともあるだろうし、万が一ふとんの上で発火すればさらに危険なことになる。象印にとって安全性は最も重視すべき問題なのである。何より厳重に保護する必要があるのはヒーター部分だ。製品の重量が増えないよう、燃えない樹脂、耐火の樹脂などさまざまな樹脂も試したがやはり強度に不安があった。
「結局、万が一ヒーターに何かあったときも安心ということで、ヒーターを金属の板で囲むことに決めました。重量の増加を極力抑えるため、薄い板に最大限まで溝を入れて、強度を高めたものを採用しました」
何度も試作し荷重をかける機械で検査をして、目標に届いているかを確認する日々が続いた。

また、誤って操作部にふとんが覆いかぶさったような使われ方をしても、過熱して事故にならないよう、製造内部が高温になると乾燥をストップする安全装置も入れた。しかしこれだと高温を検出するまでに時間がかかるため、「つい誤ってセッティングをして安全装置が作動してしまい、いざ寝ようと思ったときにふとんは冷たいままだった」という事例も起こりうる。それを避けるため、操作部をふとんの中に入れるような間違った使い方をすると検知センサーが反応しその場で教えてくれる工夫もした。これは電子制御の担当が試行錯誤して実現してくれた。
パッと開いて セットして スイッチON

岩本や岩田の奮闘があり、2011年8月頃には、ふとん乾燥機「スマートドライ」はほぼ現状の形に近づいていた。しかし、ここでまた安全性の問題が浮上する。それはふとんのホコリだ。もともとふとん乾燥機はふとんのそばで使う製品だけあり、どうしてもホコリ対策が必要になる。そんななか「ファンが異常停止してヒーターが過熱された際、機体の中に入って溜まったホコリがヒーターで発火しないのか?」という心配が出てきたのだ。フィルターの目を細かくし、取り外しはできないようにはしてある。だが、フィルターより小さなホコリは大丈夫か。子どもがいたずらでフィルターに穴を開けた場合は大丈夫か。もともとふとん乾燥機のヒーターは、一般のドライヤーなどと同じ電熱線のヒーターを使っていた。電熱線ヒーターは風が止まると温度がどんどん上がってしまう。ホコリがぱっと燃えたとき、いくらまわりは燃えない金属だとしても、火花が外に飛んでしまったりしないのか。
そこで検討されたのがPTCヒーターだった。PTCヒーターなら、風が止まった場合にも発熱量を落として温度を 一定に保つ特性があるため発火の恐れはない。ただ、高性能な部品であるため製造コストはずいぶん上がってしまう。

ふとん乾燥機の目標価格はもともと1万円弱だった。営業からもいくら高くてもせめて1万円以内に抑えて欲しいとの要望も出ていた。
だが西は、グループインタビューの感触から、1万円を越してもこの製品は売れると確信していた。価値を分かってくれる人々にきちんと届き「象印が画期的なすごいふとん乾燥機を出したな」と認知されることがまず大事だ。そこで価格設定を上げることで営業を説得した。
それよりも西が一番気にしていたのは「お客様への価値の届け方」だった。もともと今までに存在しなかった画期的な製品である。店の店頭に他社製品と一緒にただ並べただけでは、商品の特性が伝わりにくく、ただ「高価なふとん乾燥機が出たな」という印象に終わってしまいかねない。TV通販で認知を高めるのはどうだろう。それならば懇切丁寧に仕様を説明できるし、商品の良さがきちんと伝わるのではないか。他社の価格とも比較されにくいだろう。そう思って会議で話したところ、終わるなりTV通販担当者が「やろう!」と声をかけてきてくれた。担当者と一緒に試作品を持ってTV通販の会社をまわると、商談の結果も非常に好評で「いつでるの?」と発売日まで聞かれるほどだった。

ヒットの予感をはらませつつも、ふとん乾燥機「スマートドライ」の開発は一進一退を繰り返していた。PTCヒーターに代えたことで、電熱線ヒーターのときの安全装置の設定が通用しなくなり、また一からの検証がスタートしたのだ。電熱線にくらべてPTCは目が細かいため、風も通りにくくなり風量が足らなくなる。温度を一定に保つ機能のために、ある程度ワット数を出したいのに、風の量にあわせて発熱量が減ってしまう。自分たちが求める風量と発熱量のバランスを探すため、ヒーターとファンを改良し、試行錯誤を繰り返す。
2011年の11月頃にやっとヒーターの問題をクリアし、量産用の図面づくりに入った。だが、それ以降も細かな安全性能で微調整が続き、量産化の図面ができあがったのは翌年の3月だった。

いよいよ発売! 鮮烈のデビュー

岩本こうしてさまざまな困難を乗り越え、ふとん乾燥機「スマートドライ」がTV通販に初登場したのは2012年11月8日。西、岩本、岩田たちはドキドキしながら一緒に放映を見ていた。製品紹介が終わり注文時になると「ただいま電話が混み合っています」のテロップが出た。「よし!!」全員がこぶしを握りしめる。そしてその日、ふとん乾燥機「スマートドライ」は完売した。鮮烈なデビューを飾ったのである。

何か問題が起きるたび、もうダメかも知れないと何度思っただろう。「つまずきの連続で何度も行き詰まりました」と岩田は振り返る。「でも僕らが煮詰まっている時には、よく西さんがやってきて、『使いやすいという他社にはない決定的な性能があるんだからそれが達成できれば絶対に売れるよ。そんなに思いつめなくても、製品になれば大丈夫。開発者として自分たちの作りたいものを作ればいいんだから』と励ましてくれて……。とてもありがたかったですね」

「正直すんなり行った箇所はひとつも無い商品でした。やはり西さんをはじめとするまわりの方々の期待が原動力になったと思いますね」と岩本も語る。「アイデアはいいけれど、形にしてみたら商品にならないね、ということも多いなか、ふとん乾燥機は僕にとってはじめて最後まで商品化できた製品です。大変だったけどやりがいがありました」西も大きくうなずく。「性能はもちろん機体のサイズなど、最初に企画した仕様を彼らは一切妥協せず、すべてクリアしてくれたんです。これはすごいことです。作りたいもののイメージがしっかりあって、企画と開発で一致していたのだと思います。値段が上がることを営業に説得しにいっても皆「またか」と言いながらも納得してくれて。営業としてもこの商品は妥協して欲しくないと思っていたんでしょう。そういう思いで最初から最後までできたという点で、やはり特別な製品ですね」

現在、ふとん乾燥機「スマートドライ」は売れ行きも好調で、生産が追いつかない状況だった。通販サイトのコメント欄には購買者たちの喜びの声が踊っている。「象印さん、ありがとう!」の言葉が胸にせまる。
「二層式だった洗濯機が全自動に変わったように、ふとん乾燥機もマットとホースの無い形態がこれからの主流になるといいな、と思っているんです」と、岩田が夢を語る。
革新の技術はこれからどのように世の中に受け入れられ、ふとん乾燥機の常識を変えていくだろうか。これからも目が離せそうにない。

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開発担当者
岩本 雄平 YUHEI IWAMOTO(右)
西 広嗣 HIROTSUGU NISHIHIRO(中)岩田 光美 MITSUYOSHI IWATA(左)
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