象印 ZOJIRUSHI

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象印マホービンのとりくみ

開発秘話

象印の圧力で日本の家庭料理を変える!圧力IHなべの巻 Vol.16

「これまでにない商品を作る」という思いから始まった圧力IHなべの開発。煮物や煮込み料理、豆料理に至るまで、スイッチ一つで調理できるこの製品は、圧力IH炊飯ジャーで培った象印独自の圧力技術で、具材の中まで味を染みこませ、手間なくおいしい料理を作ることができる。その開発の工程は、次々に立ちはだかる壁を乗り越えていく、地道な努力の連続だった。

これまでにない商品を作る、「トライ商品」への挑戦

野間 雄太 新製品の開発にあたっては、「量産したら確実に売れて、利益が出る」製品を企画するのが当たり前。しかし、このやり方では、手堅い製品はできても、これまで世の中になかったような製品は生まれない。新たな市場を切り開き、生活を革新させるような製品を作るために、徹底的に "日常生活発想" をもとに開発を行う、それが象印の「トライ商品」だ。

長年圧力IH炊飯ジャーの開発を担ってきた第一事業部から、象印の代名詞ともいえる圧力を利用した、新しい圧力なべを作るというアイデアが出た。一般的な圧力なべの弱点である「火加減の調整が難しい」「ふたが固くて使い勝手がよくない」といった点を解消し、圧力IH炊飯ジャーのように手軽に使えるものにしたい、という画期的なものだった。打ち合わせを重ね、「圧力調理をメインに温度調理や自動メニューも充実させ、料理が苦手な人や忙しい人でも、手軽にいろいろな料理を作れる製品に。安全性はもちろん、おいしさや出来栄えも現状の圧力なべ以上を目指す」というプロジェクトメンバーの思いが一つになり、2013年3月、開発がスタートした。

一つ一つ壁を乗り越え、可変圧力機能を開発

圧力IHなべの最大の特徴は、可変圧力だ。圧力をかけ続けて具材を柔らかくした後、自動制御により減圧と加圧を繰り返す。煮汁を踊らせるように対流させ、鍋全体に行き渡らせることで、落としぶたをするのと同じ要領で、出汁に浸っていない部分までムラなく味を染み込ませることができる。この「可変圧力フロー」を実現させることが最初の課題だった。

調理フロー図これまでの圧力IH炊飯ジャーは、加圧した後緩やかに減圧していくような設計になっていた。煮汁を鍋全体に行き渡らせ、食材に味を染み込ませるためには、圧力IH炊飯ジャー並みの高い圧力をかけ、その後に減圧する必要がある。しかし、その際に激しい蒸気の吹き出しが起こるなどするようでは、とても一般家庭の台所に置くことはできない。苦心の末に生み出されたのが、加圧と減圧を繰り返しても安全な内ぶた構造だった。構造設計を担当した野間は、鍋の一部をガラスにした試作機を作り、煮汁の様子を観察した。最初は減圧しても、煮汁がチョロチョロと波立つだけ。「これでは、ダメだ」。使用する人の安全を確保しながら、煮汁を鍋全体に行き渡らせる、そのバランスを見極めなければならない。加圧と減圧を何分間隔で行うか、温度変化の推移や、弁の開け閉めのタイミングをチャートにまとめ、何百ものパターンで試験を行った。もちろん、食材に味が染み込まなくては本末転倒。試験では色水を使用し、大根の中までしっかりと煮汁が染み込んでいるか確認した。
加圧と減圧を繰り返す

また、象印の圧力IH炊飯ジャーの知見を活かし、加圧の際には1.2気圧という一般的な圧力なべより少し弱めの「やさしい圧力」を採用した。検証によって、これ以上高い気圧を加えると、煮崩れしたり、水分が抜けすぎてボソッとした食感になったりしてしまうのだ。1.2気圧ならば、豚の角煮や、肉じゃがのジャガイモなども崩れずに仕上がり、加熱しすぎると身が締まって固くなってしまう魚介類などもプリプリした食感になることが分かった。
その他にも、可変圧力フローを実現させるための課題があった。構造上、部品と部品の隙間から空気が漏れ、圧力が上がりきっていなかったのだ。パッキンなどの部品を変更して密閉性を高めてみる。すると、今度は部品の強度が圧力に耐え切れない。再度構造を見直す必要があった。十分な圧力が確保されたところで、また新たな課題が発生。勢いよく吹き上がった煮汁が、製品の上部にある、蒸気を抜くための穴から出てきてしまい、安全性やお手入れ性に欠けることが分かったのだ。ふたの内部で蒸気と液体を分離させるサイクロン式や、ふたの内部にたくさんの部屋を作って蒸気だけを外に逃がす蜂の巣式など、さまざまな方法を検討したが、ふたが分厚くなりすぎてしまう。再度設計から見直し、何度も試行錯誤をした結果、現在の構造にたどり着き、量産化の目処を立てることができた。

「これまでの商品の延長線上にある新製品ならば、開発のゴールもある程度見えていますし、どんなものができればお客様に満足していただけるのか、ある程度経験則で分かります。しかし、圧力IHなべの開発は全くの手探り。課題が発生するたびに、その原因を検証して、情報を集めて、解決策を探しながら進めていきました」と野間は語る。目の前の壁を1つ1つ乗り越えるうちに、1年以上の期間が過ぎ、試験結果の資料をまとめたファイルは、通常の製品の倍以上の分厚いものになっていた。

一目で機能が伝わる100のレシピを作る

圧力IHなべを初めて目にするお客様に製品の良さを伝えるためには、ものづくりだけでなくことづくりが必要。島田は、「圧力IHなべでどんな料理が作れるのか」を語るためのレシピ開発を担当した。普通は、ある程度の試作機が完成してから進められるレシピ開発だが、このプロジェクトに関しては、製品開発と並行して進められた。「この製品のコンセプトは、普段料理をしない人でも簡単にいろいろな料理が作れること。圧力IHなべの良さを訴えるために、レシピを100作ろうと考えました」と島田。当初想定されていた150種類以上のレシピについて、調味料の配合やおいしくできる作り方を調べ、社外の料理研究家などの意見を聞きながら、100のレシピを選定した。

島田 博司100のレシピを1つ1つ試作し、すべてのレシピに最適な、調理時間や加圧・減圧のタイミングを計るという、気の遠くなるような作業が始まった。何台もの試作機を研究室に置き、さまざまなメニューを同時に調理。研究室にはいつも、魚介のブイヤベースやカレーや煮物などが混ざった、すさまじい匂いが充満していた。試作の回数は、通算1000回以上。特に苦労した豚の角煮の試作中には、近所のスーパーで何度も豚バラ肉を買い占めたからか、スーパーの店員に「豚バラの人」と顔を覚えられた。

圧力IHなべのもう一つの特徴は、温度調理。一定の温度を長時間維持することで、白味噌やヨーグルトといった発酵食品などのメニューも家庭で作れるようになる。さらに、40℃〜100℃まで10℃刻みの温度と、調理時間を設定すれば、作れるメニューの幅は無限に広がる。「お客様が慣れてこられたらどんどんアレンジして、レシピブックにないメニューも作れるようになると思います。牛肉なら何分、ニンジンなら何分と目安になる表を作り、レシピブックに載せました」。製品を長く愛用していただきたいという思いからくる、気配りである。

100レシピをおいしく安全に作ってもらうために

100レシピブック構造担当の野間は、100レシピの作成チームと連携しながら、それぞれのレシピを調理する際の安全性の検証に取り掛かっていた。例えば豆を煮る時に、豆の薄皮が蒸気口に付着すると、蒸気が抜けずに内部の気圧が上がり過ぎる危険がある。他にも、材料を500g入れた時と450gの時、400gの時で、吹きこぼれや煮汁の飛び出しはないか、大量に調理する場合に安全とおいしさを保てるのは何人前までか、など、試験項目は多岐にわたった。豆と水の分量、加圧・加温時間、調理環境を様々に場合分けし、すべての場合で試験を行う。このレシピを開発するために実験に使った豆は、最終的に500kgにのぼった。

同じように、100のレシピに使われるさまざまな食材について、あらゆる可能性を想定する必要があった。根菜のでんぷんや葉物野菜の煮汁、魚・肉のあく、粉もの、蕎麦の生麺・乾麺…。試験を行うたびに、予想もしなかった現象が起こり、試験項目が増えていく。時間は限られているにもかかわらず、ゴールが見えない苦しい状況だったが、野間は音を上げることはなかった。「『100レシピ』をつけて圧力IHなべを市場に出したときに、量販店さんやお客様がどんなに驚くかと考えると、レシピの数を減らして、妥協する気にはとてもなれませんでした。どうせ苦労するなら、今まで世の中になかった可変圧力で、100のレシピが作れる圧力IHなべを、自分の納得できる形で完成させたい。それが心の拠り所でした」。

あらゆる可能性を想定した、安全性のあくなき追求

使用状況を想定し、お客様に危険が及ばないよう事前に対策することも大切だ。圧力弁に異物がつまった場合はどうか、センサーの反応が悪くなり食材が焦げるようなことはないか、15分の設定時間を間違って1時間にした場合に危険はないか。水を多く入れてしまった場合と少なく入れてしまった場合、寒い部屋で使う場合と暑い部屋で使う場合、電圧が低い場合と高い場合など、あらゆる状況を想定した安全性の検証には、1年以上の時間がかかった。

肉じゃが「お客様がどういう使い方をするか」あらゆる可能性を考慮して、調理中はもちろん、調理中以外でも極めて安全性の高い製品を完成させるのが、象印の伝統だ。「お客様は私たちの想像がつかないような使い方をする」が安全性検証の大前提。しかも、これまでにない製品である圧力IHなべは、考慮しなければならない「あらゆる可能性」の範囲が、圧力IH炊飯ジャーよりずっと広い。誤って部品を丸ごと食器洗い乾燥機に入れてしまっても大丈夫か、運ぶ際に机の角にぶつけても損傷しないか…。各設計者が1人で考えるのではなく、部内全員で集まって安全性の検討を行うことになった。さらに、安全性の評価を担当する部署と共同で、一般の主婦に意見を求める機会を設けた。すると、開発メンバーが思ってもみなかった、さまざまな改善ポイントが浮かび上がった。野間は、「私たちの想像できる範囲はまだまだ狭く、もっと想像力を膨らませなければならないと実感しました。やっぱりお客様の生の声を聞くことは大切ですね」と話す。

「おいしい!」と喜ぶ顔が、飛び上がるほどうれしい

EL-MA302014年5月、お客様に受け入れられるかどうか、「不安半分、期待半分」で、完成した圧力IHなべを取引先向けの新製品発表会に持ち込んだ開発メンバー。うれしいことに「おいしい!」という称賛と、驚きの混じった予想以上の反応が得られた。「これが本当にボタン一つなの?」「肉じゃがが15分でできるの?」などの質問が矢継ぎ早に投げかけられ、多彩な100レシピも好評だった。

「お客様から『こんなのが欲しかった!』と言ってもらえたのは、素直にうれしかったですね」と島田。従来の延長線上の商品ならば、ある程度売り場のスペースは決まっているが、圧力IHなべは新たに売り場を設けてもらえる可能性のある、量販店にとっても喜ばれるプラスアルファの商品として好意的に受け入れられた。「『トライ商品』に苦労して挑戦した甲斐がありました」。
10月の発売以降、増産の要望が伝えられている。それを実現するために生産数量を確保しようと、開発メンバーは遠方の工場へ何度も足を運び、現在も打ち合わせを重ねている。また、9月からのテレビ通販での先行販売は、実演で製品の良さを余すところなく伝えられる場であり、ユーザーの反応もダイレクトに返ってくる。2人は「今後もお客様の反応が楽しみだね」と笑みをのぞかせた。

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開発担当者
野間 雄太 TAKEHIRO NOMA(左)
島田 博司 HIROSHI SHIMADA(右)
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