象印 ZOJIRUSHI

象印マホービンのとりくみ

開発秘話

新たな機能を搭載し、除湿機の復活を目指せ!衣類乾燥除湿機「サーキュレートドライ」の巻 Vol.17

2015年4月に発売された「サーキュレートドライ」は、360度回転する送風口で部屋全体の空気をかき混ぜながら、衣類を効率よく乾燥することができる衣類乾燥除湿機だ。ナノプラチナユニット搭載により菌の繁殖を抑えるためニオイ対策も万全で、スタイリッシュな外観と相まって各種メディアで取りあげられ、注目を集めている。そして実は、7年ぶりに象印マホービンに復活した除湿機でもあるのだ。待望の除湿機を従来とは異なる切り口で再デビューさせた成功の背景には、技術者たちの熱い奮闘があった。 ドライサーキュレーター

開発者写真
開発担当者
安藤 裕樹(YUKI ANDO)(左)
奥村 雅一(MASAKAZU OKUMURA)(中)
岩田 光美(MITSUYOSHI IWATA)(右)
三度目の挑戦

奥村氏 2013年の夏、第二事業部の技術者・奥村雅一に、ひとつの大きなミッションが与えられた。それは、社内で懸案となっていた除湿機の再開発である。象印では2008年に製造を中止して以来、除湿機は製品ラインナップから長く姿を消していた。しかし梅雨時期の売上げを支える重要なアイテムであったため、復活を望む声は販売の現場からも高まっていた。そこでトップダウンによる除湿機復活への挑戦が決定、開発リーダーとして奥村に白羽の矢が立ったのだ。2002年に初代除湿機が誕生したときに開発チームに所属していたことも、奥村が開発リーダーに選ばれた理由のひとつだった。

実は除湿機は製造を中止した後も、2回ほど再開発が試みられていた。だが、除湿性能を落とさずに、象印が求める安全性を確保するには、使用するヒーターの加熱温度を大幅に下げる必要があり、どうしても製品のサイズが大きくなってしまう。その大きさでは到底市場に受け入れられそうもなく、結局は2回とも商品化を断念する結果に終わっていた。
しかし、お客様からの強い要望があるということは、世の中が求めている製品であるということだ。最終的に実現できなかったとはいえ、2回のチャレンジで基本的な技術は蓄積されている。奥村は、「三度目の正直」を狙うことを決意した。そして、開発のパートナーとして岩田光美を担当にしてもらうよう上司に提案し、受け入れてもらった。

岩田氏実は岩田は、断念することになった一度目の除湿機再開発にも携わっていた。安全性を追求した加熱温度で高い性能を確保する難しさはすでに経験済みだ。いかに大変な開発となるか、本当に商品化できるのだろうかという戸惑いもあったという。
「奥村さんとは長く同じ部署に所属していますが一度も同じ開発チームになったことが無かったので、一度一緒に開発をしてみたいと思っていたんです。大きな不安はありましたが、『奥村さんのためにも精一杯やろう』と思いました」
 こうして奥村と岩田という経験者が揃い、象印の除湿機復活に向けてプロジェクトは動き出した。

安藤氏一方、開発にあたっては、商品企画担当の安藤裕樹も大きな課題を抱えていた。それは、他社にはない独自性を生み出すこと。長年製造を中止していたため、除湿機の分野において象印は既に後発の立場となっていた。市場にただ参入するだけではヒットは望めない。そこで安藤は、奥村、岩田とともに、製品のコンセプトを練った。
 まず、過去2回の製品化で追求し断念した「安全性が確保できるよう、低い加熱温度でも高い性能を発揮できるコンパクトな除湿機」というテーマ自体を見直した。そして導き出されたのが「衣類乾燥に特化させた除湿機」だった。洗濯物の乾燥だけをするのならそれを満足させる除湿機能があればよいので、「洗濯物の乾燥に十分な能力」で、かつ「コンパクトな製品サイズ」を兼ね備えた除湿機が成り立つと考えたのである。

その決意を後押ししたのは、部屋干しをする家庭が増加しているという社会背景だった。花粉症の予防やPM2.5への対策、夜に洗濯をする共働きの家庭が増えたことなどがその要因とされている。安藤は実証も兼ねて市場調査に取りかかり、社内やインターネット上でアンケートを取った。いったいどれくらいの割合の世帯が部屋干しをしているのか、一度にどれくらいの量の洗濯物を干すのかなどを調べ、それぞれの家庭の洗濯物の写真も撮ってもらい、実態を調査した。結果、やはり部屋干しのニーズは高く、衣類乾燥に特化した製品はむしろ必要とされていることが分かった。こうして新製品のコンセプトが決まった。作るのは“除湿機能を持つ「衣類乾燥機」”だ。

試行錯誤を重ねて、見えたもの

広範囲をカバーできる高機能製品コンセプトが固まると、奥村と岩田は、まずはどんなアプローチで洗濯物を乾かすべきなのかを探りはじめた。目標は6kgという量の洗濯物の乾燥だ。これは安藤のリサーチにより、各家庭の大半で一度に約3〜6kgの洗濯が行なわれていることが分かったからだ。想定していたよりもかなり大量の洗濯物を、スピーディに乾かさなければならない。
 過去2回の開発から、安全性が確保できる加熱温度で、コンパクトな製品サイズにした場合の除湿性能は当たりがついている。さっそく試作機を作り、吹き出し口につけたヒーターで温風を衣類に直接当て、衣類の温度をあげることで乾燥させたり、風をたくさん衣類に当てて乾燥させたりなど、さまざまな実験が繰り返された。だが、湿度を下げずにヒーターで温度だけあげると部屋全体が高温多湿となって不快な状態になってしまうし、風で飛ばした衣類の湿気は部屋中にまわるだけでまた洗濯物に戻ってきてしまうためカラっとは乾かない。

奥村と岩田はあの手この手とアイデアを出し合い、毎日開発に没頭した。午前中に装置をつくり、午後に実験をし、夕方から夜にかけてその結果を評価検討し、次の手を考える。そしてまた翌朝から、前夜のアイデアを検証する装置を作りだすのだ。2人とも毎日、開発のことで頭がいっぱいだった。アイデアはどんどん出てくる。物干竿から温風が吹き出すものなど、家電とは呼びにくい奇抜な試作品が生まれたこともあった。

そんな試行錯誤の日々は2013年9月から年末まで続けられ、実験の数は100を超えたという。だが奥村は、当時のことを笑顔で振り返る。
「実験では、だいたい良い結果が出ないんですよ。そして岩田さんと2人で実験結果を考察し、ああじゃないか、こうじゃないかと、次の方策を検討する。すると新しいアイデアが湧いてきて『次はいけるかも知れない』と、期待に胸を膨らませながら帰宅するんです。結果がでない焦りはありましたが、毎日がとても充実していましたね」
その言葉に岩田も頷く。
「本当に毎日一喜一憂でしたね。でも、奥村さんとあれこれ知恵を絞り新しいことにチャレンジできるのでやりがいがあり、毎日夢中で取り組んでいました」
 ひたすらトライアンドエラーを続けるうちに、答えは見えてきた。それは「大量の衣類を素早く快適に乾燥させるには、部屋全体の湿度を低くする必要がある」というものだった。2人ともこの結果は予想していたものの、「やはり衣類だけではなく、部屋全体を除湿する能力が必要なのか……」と、複雑な気持ちになった。結局は安全性を維持しながら除湿機能を大きく向上させることが必要となる。かつて象印が2度断念した開発課題に、いよいよ正面から取り組まなければならなくなったのだ。そして開発の方向性は、“除湿機能を持つ「衣類乾燥機」”から、“衣類乾燥の機能を持つ「除湿機」”へと舵を切った。

発想の転換により、課題を打ち破る

ゼオライト式除湿機の吸湿の仕組みには大きく分けて3種類ある。コンプレッサーを使うものと除湿ローターを使うもの、その両方を併用するものだ。象印が採用しているのは除湿ローターを使うタイプで、季節に左右されずに安定した除湿ができる利点がある。除湿ローターにはゼオライトという吸湿材が使われており、このゼオライトが部屋の湿気を吸着し、乾いた空気を放出することで除湿が可能になるのだ。そしてゼオライトにたまった湿気は、ヒーターで加熱することでゼオライトから放出され、熱交換器で冷却されて水になって排出される。
 問題は、ゼオライトが吸収した水分を飛ばす役割を担うヒーターにあった。安全性を追求すると、ヒーターの温度はあまり上げることができない。すると、低い温度でも水分を放出する除湿ローターを使うことになる。しかしそうした除湿ローターは、水分をとらえる力も弱く、性能が低い。より多くの湿気を吸収するためには除湿ローターの面積を大きくせねばならず、製品自体が大きくなってしまう。この課題が解消できなかったため、開発は過去2回にわたって断念されていた。

奥村と岩田の考えは一致していた。まず安全性を確保するために、過去2回の挑戦と同じく、一定以上温度が上がらないPTCセラミックヒーターを採用する。そのうえで高い性能を出すにはどうすればいいか。
 まずは製品のサイズを度外視して、性能を極めてみることから着手した。ヒーターの熱分布を計測し、ヒーターのバランスを変えたり、ヒーター以外の部分も徹底的に検討する。  この課題を解決するため、見直しは除湿ローターにも及んだ。過去2回の挑戦ではずっと「温度の低いヒーターを使うのだから、低い温度で水分を放出する除湿ローターを使わなければならない」という固定観念があったのだが、本当にそうだろうか。除湿ローターを改善することはできないのか。
 そこで、今までとは違う吸湿力の高い除湿ローターで低い温度でも水分を飛ばすことができないか検討した。当時の試作機の除湿ローターの表面温度を測定すると、除湿ローターが一部分しか加熱されておらず、除湿ローターの能力を十分に活かしきれていないことが分かったのだ。除湿ローターを加熱する方法を工夫すれば、性能を上げられるかもしれない。2人はヒーターの位置や形を変え、最適な設計を丹念に探っていった。するとある条件で、除湿量が一気に倍ほど跳ね上がったのである。
「これでいけるぞ!」
2人の心は高揚した。象印がずっと超えられなかった、安全性と高い性能を両立した除湿機開発の壁を乗り越えた瞬間だった。

粘り強さが生んだ、新機能

もちろん、除湿機能だけではなく衣類乾燥機能の開発にも余念はない。6kgの洗濯物を乾かすにはたくさんの風を当てなければならないので、送風口にも工夫を凝らした。大きな吹き出し口を設け、広い範囲に風を広げられるようにした。これまでの課題はクリアしており、新製品の方向性としてはひとつの理想型に辿り着いたと思われた。年明けには社長へのプレゼンも行なった。

だが、奥村と岩田の胸のなかにはモヤモヤとしたものが残っていた。「本当にこれがベストなのか?」という思いである。
 「本当にこれでいいんですかね……?」と、実際に口火を切ったのは岩田だった。奥村と岩田の二人で部品メーカーとの打ち合わせに出かけた帰りの車のなか、渋滞中の高速インターチェンジ付近での出来事だ。
 現状のような吹き出し口の角度ではお客様の多様なニーズに応えられないのではないか。自由度が足りない気がしてならない。また、数値的にはしっかりと風量は出ているのだが、吹き出し口が広いため、体感ではあまり風量を感じないのも気になる。そよ風にしか感じられないようでは洗濯物が乾きそうな実感がわかないのではないか。
「実は私も全く同じ想いでいたんです。このまま商品化を進めて良いのか、と。そこで車の中で二人でアイデアを出しあい、小さくして風量を強めた吹き出し口を、上下だけでなく水平方向にも回転できるようにしてみよう、となったんですよ。これが大きな転換点となりました」
と奥村が振り返ると、岩田も頷く。
「現状でも企画の要求仕様は満足できていたのにも関わらず、奥村さんはきっぱり『覆す』というんです。商品企画の決定も間近で時間もないですから相当な覚悟ですし、よく決断してくださったと思います。あのときのことは忘れられませんね。今でも第二京阪の寝屋川北インターの風景が強く記憶に残っています(笑)」
事実、奥村に迷いは無かった。

DRY360°

「この変更で納得のいくものができるし、今までに無いものができるだろうと確信したんです。それと同時に設計がめちゃめちゃ大変になるだろうな、というのも確信していたのですが(笑)送風口を横に振るとなると、本体は直方体から円筒に変えなければなりませんからね」
 こうして部屋のインテリアにもなじむ円筒状の外観や、ヘッドが回転するという、新製品の特長が誕生したのだ。
 製品開発の現場では、独自の画期的なアイデアが生まれる決定的瞬間というものがある。このときがまさにそれに当たるだろう。まるで降ってわいた奇跡のように思えるが、実は違う。気の遠くなるほどの時間をかけ、いつも製品のことを考え尽くしているからこそ、珠玉のアイデアは生まれるのだ。己に妥協を許さず、決して最後まであきらめなかった奥村と岩田の粘りが生んだ勝利だともいえるだろう。

翌日、さっそく奥村は改良のための試作に取りかかり、岩田は製品変更の根拠となるようなデータを揃え、資料を作り始めた。一方、このタイミングで送風方式を変えるという大胆な変更を聞いて驚いたのは企画の安藤だ。
「本当にびっくりしました。でも、奥村さんと岩田さんがずっと検証しているのを見ていたので『二人が変えるというのなら、それが正解なのだろう』と思いましたね。発売日が決っていましたので、納期と二人の体調が心配でした」
そんな安藤がふともらした「洗濯物を狙って風を送るのではなく、部屋のどこに置いておいてもスイッチをひとつ押しただけで乾けば、もっと便利ですよね」という言葉も、開発を進める大きなヒントとなった。
それまでは、洗濯物に直接風を当てることを重視していたが、試しに洗濯物に直接風を当てずに検証してみたところ、乾燥ムラがなく思ったよりも早く乾かせられる結果が得られたのだ。そこで、送風口は上下90度以外に、左右360度回転させることに決めた。これなら空気をかき混ぜながら部屋全体を乾燥させるので、部屋のどこに置いても大丈夫、使い勝手はさらに向上する。ここにきて業界初となる新機能が完成を見ることになる。

奥村と岩田が格闘しているあいだ、安藤が苦心をしていたのは、価格設定と訴求の方法だった。普通の除湿機にはない機能を搭載し、さらに安全性を確保すると、どうしてもコストがかさみ高額になってしまうのだ。これでは市場で価格勝負になった場合、勝ち目はなくなる。
 もちろん奥村や岩田もひとつひとつの部品を見直したり、設計を工夫するなどして、コストダウンのための努力をしていた。最後の最後に送風方法を変えたときも、コストを下げつつ、性能は落とさないギリギリのストライクゾーンを狙って何度も設計をやり直した。
 さまざまな努力が実りずいぶんコストを下げることができたが、最終的に当初の設定よりも1万円ほど高くなってしまった。もうこれが限界であると安藤は覚悟を決め、営業からの反発を予想しながら試作機で製品説明会に臨んだ。だが、意外にもその予想は覆されたのだ。
「驚くほどに良い評価をいただきました。『円筒形のデザインもいいし、ヘッドが360度回るのも画期的だからこの値段で大丈夫だ』という意見が大半でしたね。今までの除湿機のイメージを覆す機能とデザインがあるため、価格の勝負ではなく、機能勝負に持ち込めると判断してもらえたんです」

横方向360°
1年を通して愛用される製品に
ドライサーキュレーター

こうして、2015年4月、衣類乾燥除湿機「サーキュレートドライ」が発売された。機能性とスタイリッシュなデザインから広く注目を集めており、「部屋のどこに置いてもムラなく洗濯物が乾いている」と消費者からも大好評だ。販売も順調で、これから冬の洗濯物が乾きにくい時期や花粉の時期に、さらなる売上げが見込まれている。
「企画から量産までずっと大変な製品でした」と、奥村は語る。実は企画を何度も変更したこともあり、開発が予定より遅れてしまい、発売までの納期が短くなってしまったのだ。難易度の高い製品だけに、企画が決定してから量産化にいたるまでの道のりもずいぶん苦労したという。そのため人手も必要となり、量産化に入る頃には第二事業部全員の協力が必要となった。
「私と岩田はきっかけを作っただけで、実際のものづくりには本当にたくさんの人の手がかかっているんです。企画も、デザインも、設計も、製造も、全員が苦労した製品です。それだけに思い入れもひとしおですね」
 岩田も同意する。「事業部一丸となって作った製品でした。検証だけでも20人は手伝ってくれたのではないでしょうか。私に声をかけてくださった奥村さんには本当に感謝していますね。開発の最初から最後まで携われるのは技術者として本当に幸せなことですから」
 安藤も新製品に熱い想いを抱く。「二人があれだけ苦労しているのを見ていますし、事業部全体が携わった製品ですから、しっかり販売していかねばなりません。私ができることは何でもやって、魅力を伝えていきたいですね」

こうして、象印の除湿機技術はあざやかな復活を遂げた。技術者たちの情熱と、携わった人たちの想いが詰まった新製品は、これからも多くの人々の家庭に届き、暮らしの頼もしいパートナーとなるに違いない。

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