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開発秘話

かまどを越える炊飯ジャーを生み出せ!圧力IH炊飯ジャー「極め炊き」NW-AS10型“南部鉄器 極め羽釜”の巻 Vol.18

2010年、炊飯ジャーに羽釜形状の内釜を採用した「極め羽釜」を生み出し、その翌年には、素材に南部鉄器を採用した内釜を搭載した「南部鉄器 極め羽釜」を発表。象印はその開発力で、炊飯ジャー業界に大きなインパクトを与えてきた。そして2016年秋、いよいよパワーアップした新作炊飯ジャーを世に送り出す。かまど・羽釜のごはんを極めつくした前作を凌駕する挑戦は、技術者たちの総力を結集する闘いとなった。

開発者写真
開発担当者
柳田 真志(MASASHI YANAGIDA)(左)
野間 雄太(TAKEHIRO NOMA)(右)
今のまま甘えていてはいけない

内釜に羽釜形状を取り入れるなど常に新しい技術を開発し、かねてよりごはんの美味しさを極めてきた象印。羽釜の素材に南部鉄器を採用することで高火力を実現し、かまどごはんの再現を果たした「南部鉄器 極め羽釜」も2011年の発売以来売上げ好調で、炊飯ジャー市場を牽引してきた。
 しかし、他社も続々と羽釜形状を取り入れるなどして象印を追従。炊飯ジャー市場全体としてはトップシェアをキープしつつも、高価格帯商品において他社にシェアを脅かされる事態が発生したという。2014年の初秋だった。
 「初代の『南部鉄器 極め羽釜』を発売して4年が過ぎた頃です。技術も安定して生産数もあがり、営業からの要望にもしっかり応えられるようになってきた頃でした。しかし『今のまま甘えていてはいけない』と、新作の開発を本格的に始めることになりました」と、設計担当の野間は語る。
 現状で大ヒットを続けている製品があるなか、一体どんな新作を生み出せば良いのだろうか。開発チームは悩んだ末に、基本に立ち戻ることを決意した。もう一度ごはんの美味しさを追究するのだ。それは自問自答にもつながった。われわれは2015年発売のNP-WU10型でかまどご飯を再現できたと思っていたが、まだまだ越えられるのではないか? かまどの再現ではなく、かまどのごはんを越えることはできないか? ここから炊飯ジャー開発の新たな挑戦が始まった。

めざすは「弾力と甘みのあるごはん」

炊飯ジャーの開発ではたゆまぬ基礎研究が欠かせないが、食味の検証もそのうちのひとつだ。まずはその研究をさらに突き詰め、「NP-WU10型を越える美味しいご飯」を追究する。現行品を元に、酢やみりん、塩やもち米などさまざまなものを混ぜて炊き、味を検証した。すると、もち米を入れたときのもちもちとした食感、糖などの食品添加物を入れたときのごはんの甘みが格段に増したことが分かった。この味を米の炊き方で実現できれば、NP-WU10型を越える炊飯ジャーができそうだ。目指すは「弾力と甘みのあるごはん」だ。

柳田氏そしてフロー担当の柳田が火力や圧力をさまざまに変えて検証を重ねると、その「弾力と甘み」は、大火力と高圧力で実現できることが分かってきたという。
「もともとNP-WU10型が美味しいのは分かっていますので、それ以上の美味しさを見つけるというのは相当なプレッシャーでした。今までは『玄米』は1.3気圧、『白米ふつう』は1.15気圧が最大だったものを思い切って1.5気圧に上げてみたんです。すると美味しくなる目処が見えてきました」。とはいえ、圧力をかけるタイミングや時間次第では逆にべちゃべちゃになってしまうので、ベストのタイミングを探さなければならない。炊飯フローとしてはかつてない挑戦の連続となった。

一方で、設計構造も一から見直しを始めることとなった。野間は、文献をあたったり、今もかまどでごはんを炊いている場所を訪れてスケッチをしたりなどして、羽釜の形、かまどの構造、昔のごはんの炊き方を徹底的に調べた。すると古来の羽釜と今までの「南部鉄器 極め羽釜」の形状が違うことが分かってきたという。

熱画像ひとつは釜底の形の傾斜だ。調べを進めていくと、火力を強くしたときにこの傾斜があるため、釜の中の対流が従来のものよりも激しくなることが分かった。そしてもうひとつの違いは、釜についている羽の長さと角度。昔の羽釜の羽は、水平ではなく下向きに少し傾斜してついていることも見つけ出した。こうすることで熱を逃がさずにしっかりとかまどに設置できるし、羽釜とかまどにスペースができて熱がまわり、均一な熱対流が生み出されるのだ。

プレミアム対流の画像実験を続けていくうちに、この2つの要素が作用することで、大火力のときに豪快な対流がうまれ、一粒一粒の甘みを引き出してくれることも分かった。「これなら行けるぞ」。目指す新しい炊飯ジャーの方向性が見えた瞬間だった。そして美味しさの鍵となる対流は『プレミアム対流』と名づけられた。


野間氏理想の釜の形状は見えてきたが、一方で野間は広浅の釜で炊きムラを無くすという従来の技術も残したいと考えていた。羽も本物の羽釜のように長くしてしまうと炊飯ジャー自体のサイズが変わってしまうので、ベストの長さを見つけていかねばならない。高さや径は現状を維持し、容積も変えずに、形状を工夫することで、羽と底面の形状を変更していく。野間の試行錯誤は続き、樹脂でつくった試作品は50近くに及んだ。
「何が一番良いのか見えなかったので、色々なバージョンをつくったんです。羽の長さ、角度、底に角度をつけた釜をどう安定させるかなど、試行錯誤の連続でしたね。ちょっとした変化に見えますが、形状を変えるだけで、釜の製造工程やそのための治具も大きく変わるので、ずいぶん苦労しました」。

極め羽釜の画像こうして試行錯誤を続けているうちに、4〜5月には鉄の試作に着手できるようになったという。鉄の試作は製造に直結するので、さらに慎重に検証が重ねられる。結局300〜400個の試作品を作ったというから驚く。羽釜形状の釜に関しては製作やコーティングも、従来の協力工場に引き続き協力をしてもらった。一緒に苦労して新製品を生み出してからまだそんなに月日が経っていないのにもう新製品をつくるというので、みんなとても驚いたという。「『象さん、勘弁してよ』と言われましたね。でも僕らが妥協しないのはここ数年の付き合いでよくご存知ですから、『もう言い出したら仕方ないわ』という感じで対応してくださいました」と、そのときのことを思い出して野間は笑う。「今までのものづくりを通して、よい信頼関係ができている証拠だと、とても嬉しく思いました」。

釜の形状が正式に決まると、今までの「極め羽釜」シリーズで検証していた柳田の炊飯フローも新しい釜にあわせて再度調整が試みられた。釜による違いは、柳田自身が驚くほどだったという。「ある程度の目星はつきますが、半分くらいは一からの作業になりましたね」。炊飯中のいつのタイミングで高圧力をかければいいか、火力をあげればいいのか、美味しい炊き方を目指して、ただひたすら検証が繰り返された。 炊いては食べ、食べては炊き、何百通りものフローをコツコツと検証していく。多い時は試作機20台を1日5〜7回炊飯したという。炊いた米は最終的に2トン以上になった。「もう家ではごはんを食べなくなりましたね」と柳田も笑う。

あきらめず、できることはすべてやる

こうして試行錯誤を重ねた結果、試作機が完成し、部品の金型のメドがつきはじめたのは2015年の秋口だった。試作機の炊飯ジャーを使い試食をしたところ、驚くほど美味しいごはんが炊けた。金型の発注は億単位になるが、この味だと自信をもって発注ができる。10ケ月に及ぶ苦労が酬われた瞬間だった。  だが、ここで開発者たちは新たな壁にぶつかる。それは高火力によって発生する吹きこぼれへの対策だ。今までは吹きこぼれたおねばを溜めるための部品(蒸気口セット)がフタにあり、取り外して洗えるようにしていたが、それも無くしてしまい、お手入れ性を向上させる構造をとろうと考えていた。吹きこぼれを溜める部分をふたの内側に大きく取ったり、いくつかルートをつくったりと工夫を重ねた。蒸気だけを外に出し、おねばは吹きこぼれず釜に戻る設計も取った。高火力を実現しつつも、構造がシンプルになるというのは画期的だった。そのために新たな部品の製造から着手せねばならなかったが、野間はあきらめなかった。何しろ数年に一度しか大きく変更することのない最高級機種である。できることはすべてやりたい。その思いは野間だけに限らず、「どうせやったら妥協せんとこうや」という思いが、チーム全員に浸透していた。
 また、蒸気口セットをなくした結果、スペースができて、ふたに取り付ける液晶画面や操作ボタンなどを大きくすることができるようになった。さらにボタンを押せば自動でふたが閉まり、茶碗としゃもじで両手が塞がっているときなどに便利な業界初の「スマートクローズ」機能も搭載することに決めた。
 「結果的に、大火力、高圧力を実現し、蒸気口部をシンプルに改良し、大きな液晶画面、大型ボタン、スマートクローズ機能を搭載できました。開発に取りかかる前は『今回は無理なのでは』と毎回思うのですが、やったらできるんです」と野間は笑顔で語る。「あれだけのフローを検証し、美味しさを実現している柳田が『大火力と高圧力でごはんが美味しくなる』というのですから、それを実現するしかありません。『この甘みともちもち感だ』という美味しさのゴールが見えていますので、お互いにそこに向かって妥協しないで突き進めたと思いますね」。柳田もうなずく。「吹きこぼれは大火力を狙ったフローにとって、制約のひとつとなるんです。でも野間さんが頑張ってくれたおかげで、ほとんど気にせずに美味しさを追究することができました」

南部鉄器 極め羽釜の商品画像こうしてそれぞれが力を尽くして完成した炊飯ジャーは、2016年5月の新製品企画商談会に出品され、大好評を得た。「盛り込みすぎなのでは?」との声もいただいたというが、いかにも象印らしいエピソードだ。いよいよ8月末には販売が開始され、秋冬の目玉商品となる。
 一見それとは分からないが、実は火力と圧力が変わるために、300点近い部品のほとんどが新たに作り替えられ、耐久性維持のため本体の構造なども変更したという。野間は振り返る。
「とてもやりがいはありましたが、部品を1つ1つ見直すことになったので、本当に大変でもありました。常日頃から一人で仕事はできないと思っていましたが、チームのみんな、事業部のメンバー、内釜や各部品のメーカーさんの協力がなければ、到底実現できなかったと思います。ここまで皆の力を結集した炊飯ジャーは無いのではないかとひしひしと感じています」。
 発売はスタートしたばかり。ここからは安定的に量産するという大切なミッションが待っている。まだまだ開発チームの奮闘は続く。

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