最後のご飯青木 美智子 様 30代・女性/兵庫県 在住

 結婚を決めようかなと思った男性とのお付き合いが楽しくて連日の外泊。母には照れ臭くて中々言えずにいましたが、母は分かっていたようで「顔ぐらい見せてね」とチクリ。
 「その時がきたらね」と、はぐらかして時は過ぎて行きました。11月の急に寒くなり出した頃、お付き合いしていた男性の家でうたた寝してしまった私は、自分の携帯の着信音で目が覚めました。
 電話を見ると妹から連続の着信履歴に、1件のメッセージが吹き込まれているとの表示。伝言を聞いてみると妹から「お姉ちゃんどこに居るの?お母さん死んだんだよ。」と振り絞るような声でメッセージが入っていました。
 状況が理解出来ず、慌てて家に帰ると母の顔の上には白い布が被さっていました。
 「お姉ちゃん・・・お母さん、家で亡くなったんだよ。眠っていると思っていたら・・・」嘘だよね、嘘だよね。私は理解が出来ないまま、母が棺に入れられ葬儀所まで運ばれて行く姿を見ているだけでした。
 しばらくすると父や妹、弟も少し気が抜けたのかお腹が空いてきたと言い出しました。
 「お葬式まで時間がまだまだ有るし、倒れたらお母さんにも悪いからご飯でも食べて体力つけようか」といつもの様に炊飯器を開けると、炊いたご飯がありました。
 私は妹が炊いたのかと思い「あなたが炊いてくれたの?」と聞くと父が、「違うよ、母さんが炊いたんだよ。昨日寝る前に炊飯器のセットしていたの見たんだよ・・・そうすると、これは母さんが炊いた最後のご飯になるな。」としみじみ話しました。全員の茶碗にご飯をよそり、家族全員で心を込めて「いただきます」と言って食べたご飯は温かくて、このまま飲み込んだら母と本当の別れになるような悲しさが込み上げてきました。
 あの時お付き合いしていた男性とその後結婚し、今では主婦業に追われる日々です。炊きあがったご飯を見る度に、母の事を思い出します。あのご飯は、母が家族にプレゼントしてくれた最後の大事な思い出。私も母のように最後まで家族を思いやれる女性になります。
 本当にあのご飯は、おいしかったよ。あと・・・遅くなりましたが結婚しました。