マラソンとオニギリ村上 真一 様 40代・男性/大阪府 在住

 小学六年生の頃のある日の日曜日、僕たちはクラスメイト全員で担任の先生の自宅を訪れました。先生の暮らす家は、都会の住宅街にある僕たちの家と違い、自然に囲まれていました。そこで、僕たちは、思いっきり自然を満喫していました。すると、お昼の少し前あたり、先生はあることを提案しました。
「ここからすぐ近くの所にマラソンコースがあるから、お前ら一度挑戦してこい」
 それは、僕たち男子生徒にだけ出された指令でした。
 当時、仲も良く、ノリも良かった僕たち男子生徒は、すぐに、「よし、いっちょやったろか」と、全員でマラソンに挑戦することを決めました。しかし、実際に挑戦してみると、その苛酷さは想像を超えていました。はっきりとしたマラソンコースの距離は分かりませんが、小学六年生の僕たちにとっては、あまりにも苛酷な距離でした。
 それでも、およそ三時間をかけて何とか全員が完走。お昼前にスタートした僕たちが、マラソンを終えて再び先生の家に戻って来た頃、時計の針は十五時を過ぎていました。
 お昼ごはんを食べずにスタートした僕たちは、当然ハラペコの状態で先生の家に戻って来ました。そんな僕たちを待っていたのは、大量のオニギリでした。マラソンをがんばっている僕たちのために、女子生徒全員でオニギリを握ってくれていたのです。
「みんなで作ったから好きなだけ食べて」
 一人の女子生徒がそれを言うと、男子生徒たちは、すぐにオニギリに手を伸ばしました。
 だけど、僕だけは違いました。なぜなら、僕には目的があったのです。当時、僕には、クラスメイトの中に好きな女の子がいました。その子は僕の初恋の人でした。僕は、何としてでも、その子の握ったオニギリを食べたくて、じっと探していたのです。
(どれがあの子の握ったオニギリかな・・・?)
 そして、ついに、彼女の握ったオニギリを見つけ出した僕は、(これがあの子の握ったオニギリや!)と確信をもって手を伸ばし、そのオニギリをじっくりと味わいました。
 あの時のオニギリは、本当に彼女が握ったオニギリなのでしょうか・・・・・・・?
 それは神のみぞ知ることなのですが、今でも僕は信じています。あの時、僕が食べたオニギリは、初恋の彼女が握ったオニギリだったと。