象印 ZOJIRUSHI

わが家の自慢料理

第17回 象印 わが家の自慢料理コンテスト入賞作品

入賞
日中ホッとスープ餃子
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鯖オムレツ
作者:濱中 様

材料
作り方

応募料理にまつわるエピソード

祖母君子はとても料理上手で明治生まれのわりに洋食が得意なハイカラな人だった。十六ですでに女中として働いており、戦中戦後と夫の代わりに四人の子供を育てた、たくましい尊敬できる女性だ。
その君子がまだ結婚する前、昭和の初め頃。君子は画家有島生馬の家に女中として入っていた。生馬は交遊範囲が広く、客や友人であふれ、何人かの弟子も抱えていたらしい。その中の一人に漢方薬局の御子息がいて、彼は留学先のフランスで結婚し、フランス女性をつれて帰国した。夫婦して生馬のサロンに出入りしていたので、君子はその女性とすぐに親しくなりフランスの家庭料理をおそわった、その中のひとつが、厚焼きオムレツである。
中に入れるじゃがいもは、ただふかすだけではなくフランスの味、フリッツにしてから使うことが最大の特徴だ。そこに君子は鯖の塩焼きの身をほぐしたものを入れ、育ちざかりの子供たちの食卓にのせた。君子は米子の出身で鯖はとても身近な食材だったにちがいない。いつもの芸のない塩焼きをフランスの香りのするオムレツに投入することで、少しでも子供たちの目先をかえたかったのだろう。八十を超えた叔父たちは、母がつくる鯖オムレツのできが悪いと、生臭いなどどからかうが、昨今のさばブームにのって子供だちは「おばあちゃん、Cava?」などどしゃれっけをだしてよんでいる。
残念ながらそのフランス女性は離婚し、その後銀座のフロリダとゆう今はなきダンスホールで働き、時々やはり今はなき銀座の喫茶オリンピックで君子と会った。君子は有島生馬と帝国ホテルで食事をしたのが自慢で、このCavaオムレツが食卓にあがると誰とはなしにその話題をだす。
わが家にとってCavaオムレツは古き良き時代を思いださせる最も重要なアイテムのひとつであり、君子がひとつの時代を乗り越えた証でもあるのだ。