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2023.06.01

SpecialCOLUMN

未来へつなぐ、私のバトン

社員もユーザーも巻き込んでつくる、サラヤ型社会貢献の仕組み。

サラヤ株式会社 広報宣伝統括部  統括部長 廣岡 竜也

世界の「衛生・環境・健康」の向上に貢献することを企業理念とした商品やサービスの開発を行っているサラヤ。手肌と地球にやさしい植物系食器用洗剤「ヤシノミ洗剤」に代表されるような環境に配慮したロングセラー商品を多数生み出しながら、さまざまな活動を通じて主体的にSDGsを推進しているリーディングカンパニーだ。

サラヤのSDGsや社会貢献活動を広報宣伝統括部長として牽引しているのが、廣岡竜也さんだ。これまで商品のブランディング業務にも携わってきた廣岡さんに、ジャンルもさまざまなサラヤの商品に共通する社会貢献への姿勢や企業としての取り組みについて伺った。


ヤシノミ洗剤をブランドストーリーで打ち出し、手応え

廣岡さんがサラヤに入社したのは2001年のこと。広告代理店からの中途入社だった。転職活動中の求人広告でたまたま目に留まったのが「ヤシノミ洗剤」の文字。サラヤという会社は知らなかったが、ヤシノミ洗剤は聞き覚えがあり調べてみると、洗剤以外にも食品などの販売、そして食品衛生から公衆衛生、医療・福祉衛生など業務用の分野まで幅広い事業を展開していることがわかり興味が湧いた。

「今でこそ環境問題の解決に熱心な会社というイメージを多くの人に持っていただいていますが、当時はそういうイメージはありませんでした。私も特に環境問題に対する関心が高かったわけではなく、いろいろなことができそうだなという思いで入社しました。」


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入社後、ヤシノミ洗剤をはじめとする家庭用商品の広告やブランディングを担当することになったが、配属してすぐのタイミングで風向きが変わった。経費削減のため、それまで長年実施していたテレビCMをやめることになったのだ。

「そこで注目したのが、雑誌でした。当時は生活情報誌を中心に"丁寧な暮らし"という言葉に象徴されるような、心地のよいモノやコトを自ら選ぶライフスタイルが30代の主婦層に支持を集めはじめていました。その層には、ヤシノミ洗剤の持つ手肌や環境へのやさしさという特長が訴求ポイントになり得るのではないかと考え、コンセプトに合う雑誌に絞ってヤシノミ洗剤の持つストーリーを伝える広告を出稿しました。」

ヤシノミ洗剤は、高度成長期に起きた石油系合成洗剤による環境汚染に対し、ヤシの油を原料とする植物性洗浄成分と香料や着色料など、洗浄に不要なものは一切入れないこだわりで、手肌にやさしく排水が水と二酸化炭素にすばやく分解されて環境にもやさしい商品。今まで大きく押し出してこなかった「商品誕生の背景とこだわり」という特長をしっかりと伝えることにしたのだ。


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社内ではテレビCMを出稿しなくなると商談がしにくくなるという意見もあったが、売上は落ちることなく順調に推移。手肌だけではなく、環境にもやさしいという訴求が響きはじめているという実感を得て、廣岡さんは社会貢献と結びつく商品開発や商品訴求への可能性を感じた。そして、他の商品ブランディングにもこの考えを反映させていった。

「サラヤはWebサイトや広告、販促物やSNSのコピーやデザインはほぼ自社で制作しており、商品情報はもちろん、社会貢献活動についてもしっかりとお伝えするようにしています。社会貢献活動はサラヤの商品を愛用してくださっているお客様がいるからこそできることなので、自分たちの言葉や表現で、できるだけわかりやすく伝えたいと思っています。」


テレビ番組で問題提起された原料生産地の環境破壊。"知らなかった"で終わらせなかった

そんな廣岡さんの意識をさらに大きく変える出来事が起こった。2004年、社長がインタビュー出演したあるテレビ番組の報道だ。番組では、ヤシノミ洗剤の原料のひとつである「パーム油」がマレーシア・ボルネオ島の熱帯雨林や生態系を破壊しているということが特集された。パーム油を多く使用している食品メーカーらに軒並み取材を断られた取材陣が白羽の矢を立てたのは、当時すでに環境問題に熱心に取り組んでいると認知されはじめていたサラヤだった。「取材依頼がきていますが、出演は見送りませんか?」。廣岡さんは広報担当者として当然のリスクマネジメントを行おうとしたが、社長の答えは「出演して、正直に"知らなかった"と言おう」というものだった。

「当時はトレーサビリティなどの概念は社会に浸透していなかった時代。サラヤも商社から洗剤原料を購入しており原料生産地の状況を知らなかったので、社長は正直に"知らなかった"と答えました。そして、"知ったからには環境保全に取り組む"とも言いました。でも、テレビ番組では"知らなかった"という部分だけが放送され、視聴者からは"環境にやさしいと謳っていたサラヤにだまされた"、"もうパーム油を使わないで"といった抗議の声が多く届いたのです。社内では動揺が広がりました。」

しかし、社長の行動は明快だった。「実態を自分の目で見て確かめる」と、パーム油の使用実態やボルネオの生産環境に関する調査を実施。その結果、世界で使用されているパーム油はインスタント麺やスナック菓子などに使用される食用が約85%、印刷用インクや化粧品、石けんなどに使用される非食用が約15%、そのうちサラヤが使用するパーム油は全体から見るとほんの数%であることがわかり、ボルネオの地においても、サラヤのパーム油使用が環境破壊を引き起こす主原因とはなっていなかった。しかし、その生産環境にはやはり問題があるという実態を掴んだのだ。

「社長は現地で、パーム油の農地開発のために住む場所を追われ傷つけられた子象に出会いました。パーム油の生産によって象と人間の間にトラブルが多発していたのです。子象との出会いは、社長の心にずしんと響いたといいます。」


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このような状況下では、今後はパーム油を使用しない決断の方が簡単だったかもしれない。しかし、社長はパーム油を使い続けることを決意する。なぜならば、現地で生産されているパーム油の数%しか使用していないサラヤが引き揚げたところで生産活動は続けられ、問題は解決しない。しかも、パーム油は世界中の人々が利用し、生産国の人々の暮らしを支える重要な産業。それならば、使用メーカーとしての権利を活用して問題改善を生産者へ要求しながら継続した活用を目指す方が、責任を果たせるのでないかと考えたのだ。

「2005年、日本に籍を置く企業で初めてRSPO(編注:持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟しました。そして、RSPO認証を受けた環境と人権に配慮したパーム油を使用することを決定。認証取得を目指す小規模農家の支援や子象の救出作戦、ボルネオでの生物多様性の保全のための活動なども現地の団体と協力して実施をすすめていきました。」


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社内もユーザーも巻き込む、ボルネオ保全プロジェクト

このような活動には、当然コストがかかる。サラヤの営業利益の中から捻出される費用だからこそ、社内から反対の声もあがった。そこで、主に経営層を対象とし、ボルネオ訪問も含む研修を実施。現地に足を運んだ社員から、意識変革の波が広がっていった。廣岡さんは、広報として環境系の賞へ応募、受賞することで社内の理解も得ていった。

「受賞するとニュースになり、取引先からも"おめでとう"と言っていただける。すると、社員として"そんな活動は知りません"とは言えなくなりますよね。その結果、社員が活動内容を主体的に学ぶようになり、次第に自分たちが社会にも家族にも誇れる活動をしているんだということに気づいていきました。受賞は社会への発信と同時に、社員への啓発にも大きな意味を持ちました。」

社内だけでなく、ヤシノミ洗剤のユーザーにもボルネオの現状やプロジェクトについて知ってほしい、参画してほしいとの思いから、2007年からはユーザーがボルネオを訪れ、パーム油が抱える問題や大自然を直接感じられる「ボルネオ調査隊」というキャンペーンを9年間実施した。普段愛用している洗剤の生産地が抱える問題を知りたい。そんな純粋な思いから応募した参加者の中には、熱帯雨林が破壊されている光景を目の当たりにして涙を流す人もいた。


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「まさに百聞は一見にしかずです。私自身も現地で地平線の彼方まで農園が広がっている光景を見たときは、人間の恐ろしさを感じました。そして環境破壊とはこういうことか、と身をもって知ることができたのです。このままではいけないと心から思いました。」


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同じく2007年、現在も続くユーザーがボルネオの活動に参画できる仕組みもつくられた。ヤシノミ洗剤の売上の1%を、ボルネオの環境保全活動の支援に充てる取り組みだ。

「商品を購入することが社会貢献につながるというこの取り組みは、当時の日本企業の中では先駆けでした。利益が減るという社内の声もあったのですが、逆に売上は上がったのです。愛用してくださるお客様のおかげで"いいことをやっていたら、売上も伸びる"という社内の成功体験ができました。ボルネオのプロジェクト以降、商品を通じてお客様とともに社会貢献に取り組んでいくという意識が、私の中にも根づきました。」

このように、社長がテレビ出演を決めたことから動きだしたボルネオのプロジェクトは、それ以降のサラヤの企業としての在り方、社会貢献活動の在り方の軸となっていったのだ。


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森の次は、海。2030年に向けて海洋保全への取り組みを推進

ボルネオのプロジェクト以外にも、「100万人の手洗いプロジェクト」、「Safe Motherhoodプロジェクト」、各種団体への支援......。今やサラヤの社会貢献活動は枚挙にいとまがないほどだ。これからの活動にはどのようなビジョンがあるのだろうか。

「次は海です。まずは2025大阪・関西万博に向けて、海洋プラスチック問題などを含む海洋保全をテーマとしたパビリオンを出展するZERIジャパンを支援し、海洋保全活動を推進していきます。」

サラヤの今までの社会貢献活動と距離があるように感じるが、ヤシノミ洗剤が排水問題を機に誕生し、ボルネオでの保全活動を続けてきたからこそ、海とサラヤは決して遠くはないと廣岡さんは言う。

「森の破壊は川を汚し、やがて海を汚します。森の保全に取り組んでいると、やはり次は海なんです。2030年のSDGsゴールに向けて、さまざまな団体と連携しながら海の豊かさを守る取り組みをすすめていきたいです。」

象印マホービンも、海洋プラスチックごみに対して問題意識を持ち、商品やサービスなど様々な角度から啓発活動を行っている。海の環境問題への取り組みの輪は、ますます広がっていきそうだ。


気軽に手にとれる商品であり続けることが、社会貢献を持続可能にする

サラヤの環境に配慮した数々の商品、商品に紐付いた主体的な社会貢献活動について伺う中で、廣岡さんが何度も口にしていたのが「商品があってこその、社会貢献活動」ということだ。

「サラヤに入社以降、プライベートでもできるだけ環境などに配慮した商品を買いたいと思うようになりました。でも、そのような商品はコストも探す手間もかかることがわかった。だからこそ、お客様にとってサラヤの商品が気軽に手にとれる選択肢であり続けることはなにより大切だと感じています。多くの方に支持され購入いただいてはじめて、社会貢献活動が実現できるのです。現在はもちろん、これからの世代の人々が暮らす毎日にも溶け込み、役に立てるような商品をお届けし続けていきたいです。」


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廣岡 竜也(ひろおか たつや) 

広告代理店を経て、2001年にサラヤへ入社。以降、ヤシノミ洗剤やベビー用品の「アラウベビー」シリーズ、そしてカロリーゼロの甘味料「ラカントS」などの家庭用商品の広告・ブランディングを担当。2004年よりボルネオで始まった環境保全活動の企画・実行に関わり、以降、サラヤの社会貢献活動の広報活動に従事している。


*プロフィール、本文等、内容については2023年4月取材時のものとなります。
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