COLUMN

2023.08.22

SpecialCOLUMN

未来へつなぐ、私のバトン

コーヒーのおいしさを追求しながら、生産者と消費者がつながりあうエコシステムを構築する。

株式会社アルタレーナ 代表取締役 八木 俊匡

コーヒー豆の生産者とコーヒーを飲む人をつなぎ、おいしさによるエコシステムを構築しようと世界を駆け回っている人がいる。関西に3店舗を構える「RIO COFFEE」のオーナーで、コーヒーによる豊かな体験を多くの人に伝えるべくCEO=COFFEE EXPERIENCE OFFICER(珈琲体験研究家)としても活動する株式会社アルタレーナ代表取締役の八木俊匡さんだ。


RIO COFFEEは、象印マホービンのマイボトル活用の新しい取り組み『ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(象印マイボトルクローク)』の実証実験店舗にも加わっている。八木さんに、コーヒーを通じて行っている多彩なエコ活動やマイボトルへの取り組みについて伺った。



自分の足で、自分の目で、自分の手で

サーモンピンクの土壁からなるエントランスに街路樹の木々の影がそよぐRIO COFFEE芦屋本店。心地よい風が吹き抜ける店内にはさまざまな産地のコーヒー豆が並び、芳ばしい香りがただよっている。

「ブラジル、エチオピア、ルワンダ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ......生産地まで足を運び生産者と交流し、生産過程を自分の目で見て、納得したコーヒー豆だけを仕入れています。」


コーヒー豆の生産者と直接取引を行い、生産者の生活向上や消費者のコーヒー体験の向上をもたらすだけでなく、一流のバリスタ、焙煎士として若手のトレーニングや各種コーヒー関連の審査員、講師なども務める八木さん。コーヒーの世界に入ったばかりの頃から、自分の足で現地に赴き、自分の目で確かめる姿勢は変わっていない。



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スポーツ選手を志していたが挫折し、カフェでアルバイトをすることになりバリスタの仕事を初めて知った。その2年後には、単身でエスプレッソの本場イタリアへ。ミラノからナポリまでバックパックで200軒以上のコーヒー関連のメーカーを訪ね歩き、理想のエスプレッソ用の焙煎豆に出会った。そして、電子辞書を通じたやり取りで、その焙煎豆のメーカーと日本で初の独占業務契約を結んだのだ。


「当時のエスプレッソは深煎りの濃い豆が主流でしたが、さわやかなエスプレッソを提供したいという思いがあり、そんな理想の豆にイタリアで出会うことができました。ただ、同じ豆、同じエスプレッソマシンでも、淹れる人によってコーヒーの味が変わるのです。その奥深さに魅力を感じて自分で研究することで、おいしいエスプレッソを淹れるノウハウを習得しました。豆を販売するだけでなく、バリスタとしてエスプレッソを提供していく場が必要だと感じ、イタリアンバールをオープンさせました。」



自家焙煎で使用するコーヒー豆を探しに、世界中の生産地へ

焙煎豆と向き合う日々の中で、八木さんは自分で原料の豆を選び、焙煎までしてみたいと思うようになる。少しずつ勉強をし、焙煎機も導入。自家焙煎が可能になり、専門のカフェを開くまでになった。それが、RIO COFFEEの前身となる「TORREFAZIONE RIO」だ。"TORREFAZIONE"はイタリア語で"焙煎"の意味。自家焙煎には原料となる豆が必要になるため、世界中にいろんな豆を探しに出かけた。求めたのは、本当に良いコーヒーを提供できる、コーヒー豆だ。


八木さんの考える"本当に良いコーヒー"。それは、コーヒー豆の栽培から、コーヒーがカップに注ぎ込まれるまでのすべての段階において品質管理が徹底されている"スペシャルティコーヒー"と呼ばれるもので、世界では約10%しか流通していない。八木さんは、自分で豆を探し、あらゆる工程で品質管理することでスペシャルティコーヒーの提供を実現している。


「世界中の生産地を訪れて、良い豆は偶然生まれるものではない、良い豆には理由があると実感しました。私がコーヒー豆を選ぶ基準はまずは"おいしさ"。けれども、それらの豆の栽培方法を見ていると、有機栽培を行っていたり、家族で丁寧につくっていたりと、やはり品質管理の質が高いのです。そのように一生懸命コーヒー豆と向き合って、良い豆をつくっている人たちや、さらにはコーヒー豆栽培のために森林伐採をするのではなく、元来の森林との共存を目指した栽培を行うコーヒー農園などを、その人となりや物語も含めてコーヒーを飲む人に伝えたいと思うようになりました。本当に頑張っている生産者のファンを増やすことは、良質なコーヒー豆を生産している人々の労働環境や賃金の底上げにもつながると考えています。」



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野菜や果物のように生産者の顔が見え、声が届けられるコーヒー豆

産地直送の野菜や果物では当たり前のように知ることができる、誰が、どこで、どのように栽培したコーヒー豆なのかということを、消費者にできる限り伝えたい。その思いから、デジタルの仕組みを取り入れることにした。


「コーヒー豆の説明が書かれたメモの二次元コードを読み込むと、コーヒー豆の情報が書かれたホームページにつながります。コーヒー豆の風味に関する説明はもちろん、生産エリア、生産方法、そして生産者の名前と写真、生産地の農園情報まで詳しく知ることができます。さらに今後は、飲んだコーヒーに対して星の数や自分の言葉で評価することで、生産者へのフィードバックもできるようにしていく予定です。」



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八木さんがこだわったのは、一方的に生産者の情報だけを届けるのではなく、コーヒーを飲んだ人からも生産者へコミュニケーションがとれるという点。生産者にとって遠く離れた日本からの消費者の生の声は、手間暇かけて大切に豆を生産する日々のモチベーションにつながる。またその声は、飲む人自身のコーヒーライフを豊かにし得るものだと八木さんは言う。


「コーヒーを飲んだときの"感覚"を自分の言葉で表現するということは、説明書きに書かれた言葉を読む以上に、その人自身が自分の好みを認識できるトレーニングにもなります。さまざまなコーヒーに対する表現を繰り返すことで、自分の好みの豆にたどり着けるツールにもなると思っています。」



きっかけは、生産地で感じた地球環境の変化

さらに、同じページ内では使用原料の輸送経路や、コーヒーを飲むまでに排出された温室効果ガスの総量、CO2の除去率も確認できる。八木さんがコーヒー豆を輸入するときは、輸送経路や輸送手段において、CO2削減につながる方法を採用しているのだ。



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「さまざまな生産地に赴くと、花が咲く季節が変わっている、乾季のはずなのに雨が降る、昼と夜の寒暖差が変わってきている......という変化を肌で感じます。生産者からもさまざまな声が聞こえてきます。それで、できることからやっていかないと、とエコを意識した取り組みをはじめたのです。」



マイボトル持参割引に加え、「マイボトルクローク」もスタート

マイボトルの活用を推進する取り組みもそのひとつだ。RIO COFFEEではマイボトルを持ち込むと飲料が100円引きになる。さらに、給水スポットとしても登録しており、無料でマイボトルへの給水も行っている。その理由を尋ねると「逆に、なぜやらないのかという感覚です。明らかにやった方がいいことだから」と八木さんは答える。RIO COFFEEの芦屋本店、中之島店において『ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(以下、「マイボトルクローク」)』の実証実験店舗として協力することにしたのも、同じ感覚だ。「マイボトルクローク」は、スマホからの事前オーダーにより、自分専用のマイボトルに入れたドリンクを待ち時間なく受け取れて、利用後にお店に預けるとボトルを洗浄、保管をしてくれるサービスだ。


「私たちがRIO COFFEEでやろうとしていることとマイボトルの活用促進は方向性が同じで、共感したので実施することにしました。」



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取材に訪れたのは、まさに「マイボトルクローク」の実証実験のスタート前日。八木さんは期待を込めて言う。


「どれだけお客様に認知してもらえるか、お客様がどのような反応をするのか......。きっと課題は出てくるとは思いますが、お客様や現場のスタッフからは"もっとこうしたら良い"というアイデアが出てくると思うので象印さんにフィードバックして、より良いサービスになるように協力していきたいと思っています。サービス利用の場合は飲料が200円引きになる価格設定で利用を促進しますが、お客様にとって良いサービスとなることはもちろん、店舗側も積極的に協力したいと思えるWin-Winな仕組みづくりができたら本運用に至った際に多くの店舗が手を挙げると思うので、そのような観点でも象印さんと意見交換をしながら、一緒により良いサービスをつくっていきたいです。」



"コーヒーかす"からCO2削減効果を生み出すプロジェクト

RIO COFFEEでのエコにつながる取り組みは、他にもある。例えば、コーヒー豆の量り売り。購入したコーヒー豆の袋を持参したら、10%の割引が受けられる。店内のカウンターや木製のトレーの原料は、近隣にある六甲山の間伐材だ。そして今、特に力を入れているのが、コーヒーを抽出した後に残る"コーヒーかす"の再資源化への取り組みだという。


「コーヒーかすを乾燥させてもう一度焙煎して炭にしたもの(=バイオ炭)を土壌に混ぜることでCO2の削減効果が見込めるため、バイオ炭をつくろうというプロジェクトを推進しています。昨年度は国連機関である"UNOPS"、兵庫県、神戸市が主催するSDGs課題解決共創プログラムに採択され、神戸市において実証実験を行いましたが、現在はコーヒー豆の生産地であるコロンビアの農地への還元を目指して動いているところです。」



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コーヒーかすの再資源化の取り組みは、身近なところでも。RIO COFFEEの壁面に左官副材として活用していたり、八木さんやスタッフの名刺にもコーヒーかすを使用した再生紙が使われている。


「これからも、さまざまな機関や地域と連携しながら、コーヒーかすの可能性を追求していきたいと思っています。」



夢はノーベル賞。コーヒーで"おいしい"の不思議を解き明かしたい

現在でも多岐にわたる活動を推進している八木さんに、今後のビジョンを聞いた。すると「ノーベル賞をとりたいです」という驚きの答えが返ってきた。その目は、真剣そのものだ。


「人はなぜ"おいしい"と感じるのか。そのことをコーヒーを通じて証明したいのです。実は、人が"おいしい"と感じる仕組みは科学的に完全には解明されていません。だから、それができたらノーベル賞ものだなと。」


コーヒーと人と向き合ってきた八木さんだからこそ行き着いた研究テーマだ。


「コーヒーを追求していくと、行き着くのは"人"なのです。いくらこちら側がおいしいコーヒーですよと言って提案したとしても、本当においしいと感じるかどうかはその人次第。しかも、もともとの好みや嗜好だけでなく、そのときの体調や飲む環境、シーンによってもおいしさの感じ方は変わってきます。つまり、そのときのその人と、コーヒーとのマッチングなのです。ならば、いかにマッチングするかということが重要になってきます。そして、コーヒーを飲む人自身が自分の好みを正しく把握できる仕組みも必要です。」



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実際に八木さんは約3,500名のコーヒー飲用者のデータをもとに分析を行っている。すると、約8割のコーヒー飲用者が酸味の少ないコーヒー豆が好きだと答えているにもかかわらず、そのうちの約6割が実際にリピート購入しているのは酸味があるコーヒー豆だったという。


「つまり自分が好きだと思っている豆と、実際に自分が好んで購入している豆に大きなギャップがあることが多く、そのことに気づいていない人がほとんどです。そのギャップを解消するために考えたのが、先ほど紹介した自分が飲んだコーヒーに対する感覚を自分の言葉で記していくという仕組みです。」


このような研究を重ねていき、人が"おいしい"と感じるのはなぜか?を科学的に追求していくこと。そして、解明した"おいしい"と感じる仕組みを活用して、ひとりひとりに本当に合ったコーヒーを提案することが八木さんの目標であり、ライフワークなのだという。そして、そのコーヒーを通じてエコを実現することも、同様だ。



1日20億杯飲まれているコーヒーだからこそ、世界を変えることができる

「世界では1日で約20億杯のコーヒーが飲まれていると言われています。そのコーヒーが飲まれた後、コーヒーかすが再資源化され、農地に還元されることでCO2を削減していくというおいしさによるエコシステムをつくることができたら、地球環境に対して大きな良い影響を及ぼすことができると思っています。コーヒーを飲むことが、エコにつながっていく、SDGsにつながっていく、そんな世界をつくっていきたいですね。」


壮大なビジョンを持つ八木さんは、今日もコーヒーを通じて世界を変えていこうと活動している。



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八木 俊匡(やぎ としまさ)
1977年生まれ。2005年に「BAR RIO」、2009年に「TORREFAZIONE RIO」を開店。現在は、関西圏で「RIO COFFEE」を3店舗運営しながら、バリスタトレーニングやカフェ開業サポートなども行う。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)テクニカルスタンダード委員、CUP OF EXCELLENCE 国際審査員、ジャパンバリスタチャンピオンシップ(JBC)認定審査員(2009-2019)、辻調理師専門学校外来講師、エコール辻大阪外来講師。


*プロフィール、本文等、内容については2023年5月取材時のものとなります。「マイボトルクローク」の「RIO COFFEE」店舗における実証実験期間は終了しました。
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