お米の調理
同じお米でも、炊き方一つで大きく変わる。
象印食堂は、「ごはんの可能性」を体験できる場所。
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プロフィール
象印マホービン
経営企画部 事業推進グループ長
北村充子さん -
2018年10月にオープンした象印食堂において、接客からメニュー開発、セミナーの企画まで広く店舗運営に携わり、『おいしいごはんの炊き方講座』では米飯管理士の資格を生かし講師として活躍。
※象印食堂は大阪難波・なんばスカイオ6階に店舗を構え、圧力 IH 炊飯ジャー『炎舞炊き』で炊き上げたごはんのおいしさを体験できる飲食店です。
ごはんの味わいを大きく左右する"炊き方"
丁寧な計量、炊き上がりのほぐし方、盛りつけ方。
小さなコツでおいしさは変わる。
—ごはんのWA、最終回となる4回目は、
象印食堂で実践されている「ごはんをおいしくする炊き方」について伺います。さっそくですが、農家の方々や研究者、流通の手を通して大切に育てられてきたお米を、
家庭でおいしく炊き上げる方法を教えてください。北村さんまず、「おいしいお米」と「おいしく炊くこと」は別物です。というのも、どれほど高級なお米、土壌や気象条件の良い環境で育ったお米でも、炊き方によって食感や風味が損なわれてしまったり、安価なお米でも上手に炊くことで味わいがぐんとよくなったりすることがあるからです。ですから、ご家庭で「どう炊き上げるか」はごはんにとってとても大切な工程なのです。炊き方についてはさまざまな方法がありますが、今回は象印食堂の『おいしいごはんの炊き方講座』でお伝えしている内容をお話ししますね。
皆さんに最初にお伝えしているのは、お米をきちんと計量することです。当たり前のことに思えても、料理に慣れた方は特に、パパッとおおよその計量で済ませてしまいがち。炊飯ジャーは1合なら1合に適した位置に水分量の目盛りを記していますから、正確に計量することで、適切な水分量で炊くことができます。はかりがなくても正しく計量できる方法をお教えしています。
そして、炊き上がったらすばやくフタを開け、底から全体を軽く返してほぐしたらもうさわってはいけません。必要以上に混ぜすぎると、しゃもじに押されてごはん粒がべちゃっとつぶれ、食感も見た目の美しさも損なわれてしまうのです。
—お店では象印マホービンの炊飯ジャー『炎舞炊き』を
使っていますよね。業務用ではなく市販されている家庭用のサイズなので、数合ずつ何度も炊く必要がありますが、
同じようにされているのでしょうか。北村さんもちろんです。ごはんのおいしさを何よりも大切にしているお店ですから、炊き上がったらすぐにフタを開けられるように、どこにいても炊き上がりメロディーは聞き逃さないですよ(笑)。
—きちんと計量すること、さわりすぎないこと。これならすぐに取り入れられそうですね。北村さんもう一つ、茶碗によそうときにも大切なポイントがあります。皆さん、しゃもじでごはんをすくったら、茶碗の上でしゃもじをくるっと返してよそっていませんか?こうしてしまうと、しゃもじで平らになった面が上部に出て、盛りつけがペタッとしてしまいます。そうではなく、しゃもじにのせたごはんをお茶碗にそっとスライドさせるイメージ。そうすると、ふわっと山型に、米粒をできるだけつぶさずに盛りつけることができます。簡単なので、ぜひ試してみてください。
こうした小さなコツの積み重ねで、ごはんのおいしさは驚くほど変わります。セミナーではさらにお米の洗い方などのポイントをお伝えしながら、実際に炊いて、食べ比べなども行っていますよ。
"主食"から"主役"へ
ごはんのおいしさを、発見していただくために。
—「炊き方によって味が変わる」とはよく聞きますが、
実際にはなかなか実感する機会がありませんよね。北村さんそうですね。ごはんにこだわったお店は多くありますが、『白米と玄米』や『コシヒカリとあきたこまち』など、種類で違いを出すお店が目立ちます。象印食堂では、炊飯ジャーメーカーとして「炊き方の違い」を実感していただきたいと考え、同じ品種で、炊き方だけを変えた2種類の食感の白米をご用意しています。一つは象印が考えるおいしさの基準である"ふつう"。そしてもう一つは、 "もちもち"か"しゃっきり"。この"もちもち"か"しゃっきり"は、時期によってどちらか片方をご用意しています。
「炊き方だけで、違いを実感できるほど変わるの?」と思われるかもしれませんが、実際に食べた方からは「同じお米とは思えない」「食感も味わいも全然違う!」と驚きの声をいただいています。
また、日本中で栽培されるさまざまなお米の中から新しい味に出合っていただけるように、白米のほかにも"健康応援米"をご用意しています。"健康応援米"は、オリジナルブレンドの玄米や、胚芽が通常の約3倍もある「金のいぶき」など月替わりで品種を変えているので、再来店された際にはきっと新しい味をお楽しみいただけますよ。
—象印食堂には常時3種類のごはんがあるのですね。
全部味見してみたいけれど、一食で3杯も食べられる
でしょうか…。北村さんそうした声にお応えして、お茶碗一杯の量を少なめに設定しました。象印食堂の「基準」は茶碗に半分ほどの約80g。さらに、ちょっとだけ食べてみたいときは遠慮なく「少なめ」をご注文ください。2口ほどの少量をおつぎします。ぜひいろいろ試して、お好みの味を見つけてくださいね。
—象印食堂では、なぜそれほど「ごはんのおいしさ」にこだわるのでしょう。北村さん『ごはんは日本人の主食』と言っても、疑う人はほとんどいませんよね。ですが、実際に食べるときはおかずが主役という感じがしませんか?こだわりのお米、こだわりの炊き方でふっくら炊き上げたごはんは、本当は食卓の主役になるほどおいしいのです。普段何気なく食べているごはんに、「ごはんって、こんなにおいしいんだ!」と驚きを感じ、ごはんの可能性を発見していただくことがこのお店の役割です。
すべては「おいしいごはん」のために
炊きたてごはんの、しあわせな香り。「おいしい」体験は、食べる前からはじまっている。
—ごはんを主役として味わっていただくためには、
おかずも重要ですよね。象印食堂のおかずには、
どのようなこだわりがありますか?北村さん和の味つけでごはんに合うことを基本に、旬の食材を味わっていただけるよう四季ごとにメニューを入れ替えています。そして特にこだわっているのは、家庭でも作っていただけるレシピであることです。
—通常、外食では「家庭で食べられない特別な味」が
求められるように思いますが、なぜでしょう?北村さんごはんは、日本人が日常的に口にするもの。ですから象印食堂では、お店でしか味わえない特別なごちそうではなく、毎日食べる、いつでもおいしい食事をめざしました。
象印食堂で使用している食材は、高級なものではなく、スーパーで手に入るものがほとんど。Webサイトで毎月レシピを公開しています。そして、店頭で販売しているお米と象印マホービンの『炎舞炊き』さえあれば、ここで「おいしい!」と感じたごはんを、いつでも味わうことができます。
ご家庭ですぐに作っていただけるように、最近はレシピ動画の公開もはじめました。オープンから2年、「おいしいごはん」をお届けするために、もっといろいろなことに取り組んでいきたいですね。
—ごはんやおかずのほかにも、
こだわっていることはありますか?北村さんこのお店は商業ビル『なんばスカイオ』の6階にあり、ちょうどエスカレーターを上がったところに入り口があります。そこで、お客さまがエスカレーターを上がって来られるときに、炊きたてのごはんのいい香りが届くように、炊飯ジャーを入り口に近いところに置くようにしました。ここは店内のお客さまからも、スタッフがごはんをよそう姿がよく見える位置です。まずは嗅覚で炊きたてごはんの「いい香り」を味わい、次に炊飯ジャーを開けたときの湯気や山型に盛ったつややかなごはんで視覚的に「おいしそう」と感じ、さらに食べたときの触覚・味覚で「おいしい!」と実感していただく。こうして多角的に「ごはんのおいしさ」をお届けするようにしています。「おいしい」って、味覚だけではなく、五感で味わう楽しみではないでしょうか。
象印食堂のつながりのWA
お客さまからの声を抱えて現場へ。
—「おいしいごはん」のために、
象印食堂の今後の展望をお聞かせください。北村さん店頭に立っていると、お客さまから本当にいろいろな声をかけていただきます。「このごはんがおいしかった」「こんな食感のごはんを食べてみたい」…。そのどれも、おいしいごはんのための大切なヒントです。その声を、今度は農家や研究者の方にフィードバックしていきたいですね。実は、象印マホービンとしては継続的に田植えや稲刈りのイベントを行っていますが、象印食堂としてはまだそういったイベントに参加したことがないのです。
お米を実際に育てたり新しいおいしさのための研究に関わったり、取り組みたいことはたくさんあります。もちろん象印マホービンは炊飯ジャーメーカーですから、ごはんをさらにおいしく炊き上げる炊飯ジャーの開発にも、お客さまの声を生かしたいですね。象印食堂は、炊飯ジャーメーカーである象印マホービンが直にお客さまと触れ合える貴重な場所です。お客さまからの声を、農家や研究者、そして開発といった現場に返し、さらにおいしいごはんをつくるために生かしていく。象印食堂が、そんなしあわせな循環の一部になれるのなら、これ以上うれしいことはありません。