STORY02
STAN.って、ちょっと不思議な製品だと思います。
特別に派手なわけではなく、特別に高機能なわけではなく、特別に安いわけでもない。
それなのに、多くのお客様に支持され、愛用されている。
どうやらSTAN.には、従来製品とは
少し異なる「魅力」があるようです。
なぜ、「特別」ではないSTAN.が、
ここまで愛されているのか?
答えは様々でしょうし、もしかすると、正解はないのかもしれません。でも、それを知ろうとすることは、決して無駄ではないと思います。
この連載は、STAN.に関わった人々の言葉をまとめたものです。
STAN.にまつわる言葉を通じて、STAN.の魅力と、「その魅力が生み出された理由」を探求していきます。
まずはじめに、「STAN.」という名前の由来にもなった3つのキーワードをご存知でしょうか。
これらを掘り下げることは、すなわち、STAN.を深く理解することに繋がるはずです。
今回は、STANDARD「スタンダードをつくり続けること」をテーマに、企画・設計担当の皆さんにお話を伺い、
購入しやすく扱いやすい製品として、多くのお客様にご愛用いただいている理由を紐解いていきます。
インタビュアー:渡辺平日
イラスト:星野ちいこ
編集:『STAN.にまつわる言葉たち。』編集部
INTERVIEW
01
自分たちが欲しくなるようなものを
炊飯ジャー・企画担当みしま かずのり三嶋一徳
--STAN.のメインターゲットは「30代の共働き子育て世代」だと伺いました。従来製品とは年齢層が異なりますが、仕事を進めていく上で、いつもと勝手は違いましたか?
それが、非常に想像しやすかったですね。なぜかというと、僕自身が「ターゲット」だったからです。このあいだ二人目も生まれましたし、ちょうど子育て真っ盛りなんですよ。そんな状況でしたので、「自分たちが欲しくなるようなものをつくろう」と思いながら企画を進めるようにしました。
「食べる瞬間」だけじゃなくて「食べる前後」も大切
--STAN.プロジェクトを経験したことによって、なにか変化はありましたか?
デザインへの意識は確実に変わったと思いますね。象印は世界に誇れる技術力を持った会社で、それを武器にこれまで歩んできました。だから、ちょっと極端に言えば、「絶対に他社よりも技術が優れてなくてはならない」というような空気が社内に漂ってたんですよ。
でも、STAN.が発売され、評価されてからは、そのムードもちょっとは変わったと思います。「技術も大事だけど、デザインも大事だよね」というふうに。
--いままでは「ご飯のおいしさそのもの」が重視されてきましたが、それ以外の要素も重視されるようになってきた……ということでしょうか。
そうですね、まさにそのとおりだと思います。「食べる瞬間」だけじゃなくて「食べる前後」も大切ということですね。
これまでは、ある技術をベースに設計が行われ、それに沿った企画やデザインを考えてきました。これからは、従来の方法と並行して、まず企画やデザインがあって、そこに技術を当てはめていくというやり方も、できそうだなと考えたりしています。
それだったらSTAN.のほうがええですよ
社外の方とお話させていただく際に、「炎舞炊きが気になっているんですが、使い心地とかどうですか?」などと質問を受けることがあるんですよ。そういうとき、その方の年齢やライフスタイルによっては、「それだったらSTAN.のほうがええですよ」とおすすめしたりしますね。
炎舞炊きは非常によくできた製品なんですけどね。我々の世代が使うんだったら、STAN.のほうがいい場合もあると思います。
INTERVIEW
02
ほんとうに必要としている機能を
コーヒーメーカー・
企画担当くりはら まなみ栗原愛美
象印は高い技術力を生かし、機能性を追求したものづくりを続けてきました。そこに魅力を感じていただくことも多いのですが、すべてのお客様がそれを求めているわけではないですよね。
そこでSTAN.では、「ターゲットがほんとうに必要としている機能」を洗い出し、需要の高い機能を搭載することにしました。それが若い世代のお客様に受け入れていただけた理由のひとつかなと思います。
視野が広がった気がします
--STAN.プロジェクトを通じて、なにか発見や変化はありましたか?
私の性格もあると思うんですけど、これまでは自分が担当している製品のことしか、ほとんど把握してなかったんです。同じ部署にいる人がなにをやってるのかもあまり知らないような状態でした。
でもSTAN.はシリーズものなので、普段よりも多くの人たちと歩調を合わせていく必要があって……。何度も調整を繰り返していく過程で、「横串を通すこと」の大切さに改めて気づかされました。
STAN.の企画を経験したおかげで、以前よりも視野が広がった気がします。たとえば別の部署が担当している「ホットプレートはどんな感じかな?」とか、「どのあたりまで煮詰まっているんだろう?」とか、そんなところにも目が向くようになりました。
生活への溶け込み方が変わってくる
長年コーヒーメーカーを担当していましたが、「どうして(容量の基準が)コーヒーカップだけなんだろう?」と、なんとなく疑問に感じてました。たぶんSTAN.のターゲット層って、マグカップ派の方が多いと思うんです。
--たしかに! 言われてみるとそうかもしれません。
そうですよね。でも、ある意味で慣例というか、「昔からこうだから」という感じで、あまり気にされない部分なんですよ。
でも、STAN.プロジェクトは、全体的に「新しいことをやろう」という機運があったんですね。なので、細かい仕様を決めていくときに、マグカップの容量も分かるようにしたいと要望を出しました。会議では「いままでコーヒーカップだったのに、なんでマグカップ?」とツッコまれましたが(笑)
もちろんコーヒーカップを使っている人を否定するわけではないんです。ただ、もし自分が使うとしたら、マグカップの容量も分かったほうがいいなと感じたんですね。小さな違いですが、あるとないとでは、生活への溶け込み方が変わってくるんじゃないかと……。
INTERVIEW
03
気取ってないけど、特別感があるもの
ホットプレート・企画担当えぎ ひろこ江木浩子
--企画に取り組んでいくにあたり、どのようなことを大切にしましたか?
私自身がターゲット層に近いので、「自分だったらどんなものがほしいだろう?」という視点を大事にしました。
--なるほど。江木さんは、どんなものがあればいいなと思いましたか?
自分が担当したホットプレートですと、忙しい日はササッと手軽に料理が作れて、余裕のある日は手の込んだごちそうが作れるような……。
そういう日常になじんでくれる、「気取ってないけど、ちゃんと特別感があるもの」に仕上がったら嬉しいなと考えてましたね。
よりニュートラルな印象に
--STAN.シリーズでは、社名ロゴを入れずに象印マークだけをあしらうという、小さいけれど非常に大きな挑戦をされていますね。そのことについて、どう思われましたか?
うーん、そうですね。STAN.の本体に「ZOJIRUSHI」という社名が入っていたら、また違った印象になっていたと思います。うまく言えないですけど、社名を入れないという決断のおかげで、よりニュートラルな印象になったし、それによってSTAN.が「完成」したという感じがしますね。
--ちなみに、象印マークについて、友人やご家族から感想をもらったことなどはありますか?
子どもはまだ小さいので分からないのですが……(笑)。水筒を使っているお友達は「象のマーク、かわいいよね」と、ほんとうに何気なくですけど褒めてくれたりしますね。きっとこのマークは、象印の、まさに象徴的な存在なんでしょうね。
INTERVIEW
04
「誇りに思ってます」と言ってくれた
電気ポット・企画担当いわもと ゆうへい岩本雄平
自分の部署に営業出身の若いメンバーがいるんですけど、「(STAN.を)誇りに思ってます」って言ってましたね。
「象印の持ち味は『いい意味で地味』なことだけど、その一方で、こんな素敵な製品もつくれる。それってすごいことだと思います」と嬉しそうに語ってました。
--おお。それは嬉しいですね。
ええ、それはもう(笑)。でも、同時にプレッシャーも感じますね。これからもずっとそう思ってもらえる製品を提案し続けないといけませんから。
家族や友人に声をかけて、協力してもらうこと
プロジェクトが進んでいくうちに「ほんとうにターゲット世代に共感してもらえるのか?」という意見が出てきたんです。それで、「じゃあグループインタビューをやろうか」となって、慌てて2週間くらいで用意して……。主に企画を担当するメンバーの家族や友人に声をかけて、協力してもらったんです。
--家族や友人に協力してもらうことはよくあるのでしょうか?
いつもは調査会社を通じて募集をかけているんですが、正直な話、時間がなかったんですよ。それで、家族や知り合いに頼ったんです。
結果的にはそれがすごくよかったです。忌憚のない意見が聞けましたし、ご夫婦それぞれの視点からの評価もいただけて。ほんと、大収穫でした。
このデザインなら置きたいと思ってくれるだろうか?
--STAN.プロジェクトを通じて、社内でなにか変化はありましたか?
以前よりもデザインが重視されるようになったと感じています。これまでもキッチンに置いたときの印象は重視してましたが、あくまでも「この大きさなら邪魔にならないね」というレベルだったんですよ。
でも、最近は「このデザインなら置きたいと思ってくれるだろうか?」と考えるようになりました。なんというか、このプロジェクトを経験したことで、視座が上がったような気がしますね。