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STORY02

STAN.にまつわる言葉たち。vol.2 STANDARD

INTERVIEW
05

なるべく長くきれいに使ってほしいから

ホットプレート・設計担当やまにし さとし山西智士

ホットプレートには「ガード」とよばれる、やけどを防ぐための部品がついています。より便利に使えるよう取り外して洗えるようにしたのですが、この仕様がなかなか曲者でした。というのも、STAN.は樹脂の上に塗装を施しているので、「洗っても塗装が落ちないか?」という検証が必要になったんです。

--なるほど。塗装している機種はすくないので、データもあまりないわけですね。具体的にはどんな作業を行ったんでしょうか?

もうひたすら、スポンジでこすって、水で流して、布巾で拭いてと、その繰り返しでしたね……。

この検証で得たデータを基に、塗装の方法やシボ(細かい凹凸の模様)の細かさなどを微調整しました。

STAN.って、ものすごく外観もきれいじゃないですか? なるべく長くきれいに使ってほしいから、そういうところにも気を配ったんです。

高い場所から落とす実験を1か月

従来製品のガードは二重構造を採用していますが、STAN.の場合はデザインの都合上、一重構造を採用することになりました。

これが原因である問題が発生しまして……。ガードは高熱にさらされるので、一重だとすぐに変形してしまうんです。そこで、より強固な樹脂を採用し、「熱」問題をクリアしました。

ところが、硬い樹脂を使ったために新たな問題が発生しました。万が一、落下させてしまったときに、ガードが割れて飛散する危険性があるんです。
それから「どういう構造にすれば割れないか」という検証を行うことになり、テーブルやキッチン台よりも高い場所からガードを落とす実験を1か月くらい続けました。

実際には、そんな高いところから落とすことはまずありえませんが、念には念を入れてということですね。こういう地味な検証を繰り返したおかげで、安全性は担保できたと思います。

INTERVIEW
06

地味な作業の積み重ねが、お手入れのしやすさに

炊飯ジャー・設計担当むらがき まさと村垣雅人

内釜の周辺は汚れやすいので、ふたを開けたときのフレーム部分にシボ加工(表面にシワ模様をつけること)を施しています。凹凸があると米粒や調味料が拭き取りやすくなるんですよ。

ひと口にシボといってもいろいろなパターンがあります。ですので、シボのサンプルをいくつか作って、一番拭き取りやすいパターンを調査しました。

--部位によってシボを微調整しているんですね。ちなみに、どういうふうに調べていったのでしょうか?

具体的には、醤油なんかを垂らして、放置して、拭き取ってと、そういう作業を繰り返しました。こういう地道な積み重ねが、お手入れのしやすさに繋がっていると思いますね。

粗さを数値化し、解決しました

--設計を進める上で、苦労したことや印象に残っていることはありますか?

シボの調整はけっこう大変でしたね。試作品の段階だと、もっとシボが細かかったんです。ところが、これがなんともデリケートで……。触るだけで傷がついてしまうほどだったんです。これでは使用に耐えられないということで、シボを粗くして傷がつきにくいようにしました。

ここまでは炊飯ジャーだけの話で、今回はシリーズものだから、他の機種ともシボの大きさを合わせる必要があります。これがなかなか大変でしたね。製造している工場が違うから、同じようにやってもシボの質感が微妙に変わってしまうんですよ。

それで「どこの工場の基準に合わせんねん」みたいな話になりましたね。「そっちが変えてよ」みたいな。

--いったいどう解決されたのでしょうか?

だんだん収拾がつかなくなってきたので、表面の粗さを数値化することで解決を図りました。全パーツの表面の粗さを測って、「粗さがこの範囲に収まっているなら合格。外れたらやりなおしてね」というふうにして、なんとか進めていきましたね。

INTERVIEW
07

とうとう眠れなくなりまして…

電気ポット・設計担当おざわ てるゆき小澤輝幸

--設計を進めるにあたり、なにか印象に残っている出来事はありますか?

苦労話になるんですけど、電気ポットの鼻(お湯が出てくる部分)のせいで、それこそ眠れなくなるくらい悩みましたね。

STAN.の鼻の形状って、従来製品とはまったく違うんですよ。ピノキオの鼻みたいに飛び出しているでしょう? この特殊な形状と安全性とを両立させるのにとても苦労しました。

考えても考えてもアイデアが出ない。どんどん月日が経って、どんどん納期が迫ってくる。そんなこんなで、とうとう眠れなくなりまして……。

--苦労が偲ばれます。いったいどうやって解決したのでしょうか?

それがある日、午前3時くらいやったかな。パッと目が覚めたんですよ。そのとき、天から「お告げ」がありまして……。「こうしたらどうや?」と。

で、すぐに飛び起きて、トイレに駆け込んで、そのアイデアを紙にスケッチしたんです。

--すごい! それからどうなったのでしょうか?

それで次の日、会社に行って、担当者にメールでスケッチを送ったんですね。「これでどう?」って。そのときのアイデアが無事に採用され、今に至るというわけです。

いつもの見慣れた風景が変わった気がする

--電気ポットをご自身でも使用されているとのことですが、キッチンに設置したとき、どんなことを感じられましたか?

キッチンにポンと置いたとき、「おお、これはカッコええな!」と思いました。これまで会社で何回も見てきたはずなんですけどね。
なんというか、いつもの見慣れた風景が変わった気がしましたね。いまはもう家にないんですけど……。

--家に電気ポットがない? どうされたんですか?

それがね、息子にあげたんですよ。「結婚して家を出るから、これちょうだい」って言われて(笑)

売り場を観察したら聞こえてきた
「こんなにカッコイイの出したんや」

そういえば、STAN.が発売されたとき、家電量販店へ行ったんですよ。

--おお。自ら市場調査をされたんですね。

そんな大層なものではありませんが(笑)。ちょっと離れたところから売り場をジッと観察したんですよ。

--やはりお客様の反応って気になりますよね。なにか印象的な出来事はありましたか?

ちょうどターゲット世代ぐらいの二人組が、STAN.の前を通りがかって、そのまま通り過ぎようかという時に、クルッと振り返ったんですよ。

それから、「これええなあ」とか「(象印が)こんなカッコいいのを出したんや」とかって褒めてくださってて……。あれは心に残りましたね。

INTERVIEW
08

「蓄積」が支えるもの

コーヒーメーカー・
設計担当
たかひら さとし高比良整

--象印には「安心の老舗メーカー」というイメージがあり、お客様からも信頼されていると思います。その信頼に応えるために、心掛けていることはありますか?

新製品の設計がはじまるたびに、過去に寄せられた「お客様の声」をしっかりと調べるようにしています。

歴史の長い会社ですから、情報量も非常に多く、とても参考になりますね。そこから得られた情報を基に、より使いやすく、より安全な製品づくりに日々取り組んでいます。

デザインと性能がいいものはちゃんと認められる

--多くの意味で挑戦的なシリーズとなったSTAN.。発売前、どんなこと思っていましたか?

発売前は「これ、ほんとうに売れるのかな?」って不安に思ってました。象印としては挑戦的な製品で、価格設定も高めでしたね。

でも発売後、お客様からは好意的な意見をいただけまして……。ホッとしました。

--発売されるまではなかなか安心できないですよね。さて、違う質問になりますが、STAN.プロジェクトを通じて、なにか発見や変化はありましたか?

「デザインと性能がいいものはちゃんと認められる」と分かったことは、私にとっては大きな収穫でしたね。

Vol.2 まとめSTANDARD スタンダートをつくり続けるとはわかりやすくて納得できる

「スタンダードをつくり続ける」とは「わかりやすくて、納得できるものをつくること」と言い換えられるかもしれない。インタビューを終えた後、僕たちはそんな思いを深めました。

それから、こう考えました。「スタンダードをつくり続ける」ためには、ほんとうに必要な機能を見定めた上で、これまでに培ってきた歴史の「蓄積」を生かすことが大切なのかもしれない、と。

闇雲に新しさや高いスペックを求めるのではなく。自分たちが購入し、実際に使ったときに、心から納得できるかどうか。
そんな答えのない問いに、何度も何度も向き合うことで生まれたもの。それこそがSTAN.なのではないでしょうか。

STAN.に迫る旅も、折り返し地点になりました。

次回はSTANCE「スタンスを伝えること」

について、お話を伺っていきたいと思います。

STAN.にまつわる言葉たち。』編集部