
デザインから動き出したものづくり
「いままでの象印と、ちょっと違うね」と言われることの多いSTAN.シリーズですが、「変えよう」と強く意識したわけではありません。もっと自然に、「新しい世代のライフスタイルや価値観を大切にした結果、新しいカタチが生まれてきた」というイメージです。「未来を担う30代・子育て世代の方々が、本当にほしいものをつくりたい」。プロジェクトの詳細な部分で迷っても、この想いが揺らぐことはありませんでした。
「象印が新しい世紀を迎えるにあたり、デザインが魅力となる商品シリーズを」。こんな号令が社内にかかったのは、100周年を迎える一年前の2017年。さっそく各部署のスタッフが集結したものの、新しい取り組みだけに、なかなかラインアップが決まりません。「それならいっそ、デザイン先行で」と、製品が決まる前にデザインイメージから固めていくという、普段とは逆の進め方となりました。

キーワードは原点回帰の「うつわ」
ここで私たちの力強いパートナーとなってくれたのが、初めておつきあいするデザイン事務所のTENTさんです。象印への先入観や既成概念にとらわれず、より自由な発想で、内部だけでは生まれにくい、すばらしいデザインイメージを提案していただくことができました。
そのキーワードは、「うつわ」。そもそも象印は「家電」ではなく、「まほうびん」というガラスの器からはじまったので、原点に戻るという意味でも良い!と直感しました。シンプルなのに味わいがあり、温もりが伝わる。まさに器のように、使うほどに愛着がわいてくるデザインです。
▲ デザイン事務所のTENTさん
▲ 器のように、使うほどに愛着がわいてくるデザイン
見た目以上に、ほしい中身を
もちろん、デザインが良いだけでは、良い商品とはいえません。ターゲット世代の社員が率先して「私たちが本当にほしいものって、なんだろう?」と機能や仕様をとことん検証。デザインが先行したことで設計開発チームには大変な苦労をかけましたが、みんな「新しい象印」への期待を感じたからこそ、頑張れたのだと思います。
ネーミングについては、再びTENTさんからいただいた提案をもとに、“あなたの暮らしにスタンバイ。(STANDBY)、スタンダードをつくり続ける。(STANDARD)、それが象印のスタンスです。(STANCE)” の意味を込めて「STAN.」というすてきな名前を授けることができました。

▲ レシピブックにはイラストを掲載(イラストレーター 小池ふみさん)
象のシンボルマークにも新たな注目が
こうして、象印の新しい顔となる家電シリーズが誕生しました。「これならきっと、これからの若いターゲット世代の気持ちをつかめる。いや、つかみにいかなくては」。そんな想いで、本体に刻むマークから販促ツールに至るまで、デザインのこだわりを徹底。そのひとつが、STAN.シリーズの黒いボディに愛らしく映える、象のシンボルマークです。
ささいなことのようですが、ロゴマークは企業からの大切なメッセージ。これまでずっと「家電にはZOJIRUSHIの社名が必須」でしたが、このSTAN.シリーズは前例にとらわれず最適のデザインをめざすことに。周囲を説得して象のシンボルマークだけにした結果、若いお客さまにも「マークがかわいい」「おしゃれ」と再評価され、他の製品のデザインにも採用されるようになりました。
▲ 正面に愛らしく映える象のシンボルマーク
▲ デビュー時のコンセプトショップ「STAN. TABLE」(2019年2月)
新しい「象印らしさ」のはじまり
ものづくりにおいて機能やコストを優先すると、どうしてもデザインが後回しになりがちです。けれど象印ではSTAN.シリーズ発表以降、デザインを評価される製品がつぎつぎと生まれ、デザイン賞の受賞も増加。先に挙げた象のシンボルマークを含めて、お客さまのブランド好感度も高まったと実感しています。
これこそ、STAN.プロジェクトが生みだした最大の成果かもしれません。「象印らしさ」を否定するのではなく、「象印らしさの新しい一面を創りだす」。そのことが、新しいお客さまからの期待に応える、私たちの新しい一歩へとつながるのです。
▲ ホットプレート(EA-FA10)
▲ 2021年10月には「自動調理なべ(EL-KA23)」が仲間入り
永遠のスタンダードをめざして
デビューの翌年から、STAN.を象印のブランドにするための取り組みがはじまりました。新しい“ファン”を生み、他の製品にも変化をもたらしたSTAN.なら、若い世代と象印をつなぐ新ブランドになれるはず。それをみんなで大切に育てていこう、という第二章のスタートです。
「ブランドを育てる」のは、とても難しいことです。現状の「STAN.らしさ」にこだわりすぎると、やがて時代からずれてしまいます。ほどよくトレンドを受け入れ、時代が変わっても、そのときの若い世代にとってのスタンダードでありつづけるように。いつだって発信する側とお客さまが「いいね」を共感できる、理想的なブランドをめざしていきますので、どうかご期待ください。

象印デザインの
「ここだけの話」
「コーポレートスローガンの “日常生活発想” という
言葉に、とても魅力を感じています。
つねに生活者の目線に立ったアイデアと、安心、安全、信頼。そのすべての象徴が象のシンボルマーク。
この象さんがいつも日常を見守っている、
そんなイメージを伝えていきたいですね」
堀本 光則/デザイン室長
所属部署・内容は取材当時(2021年10月)のものです。