象印 ZOJIRUSHI

さめない魔法をいつまでも。 国内唯一のガラス中びん工場。

「ガラスマホービン」

福町工場 / 丸山 純(左) 
設計開発担当 / 小林 尚史(右)

「象印マホービン」という社名のとおり、マホービンは象印が1918年の創業以来、つくりつづけてきた製品です。ガラス製の中びんを真空断熱構造にすることで、冷たいものはいつまでも冷たく、温かいものは温かく。新たな素材としてステンレスを採用してからも、オール国産のガラスマホービンづくりを継続。2022年、象印マホービングループの福町工場が国内唯一のガラス製の中びんの生産拠点となりました。1世紀以上にわたり、変わらないものづくりを継承する取り組みについて、生産・開発メンバーからの声をお届けします。

STORY.

つくりつづけて国内唯一に

福町工場は、象印商品の製造を担うグループ会社「象印ファクトリー・ジャパン」のなかでも、ガラスマホービンに特化した生産拠点です。いまでこそ多種多様に広がる象印の商品・サービスも、すべてはこのガラスマホービンからはじまりました。そんな事業の出発点となった商品を、いまもこの手でつくりつづけていることが私たちの誇りです。
ガラス製の中びんをつくる国内工場は、時代とともにどんどん減っていきました。それでも私たちが自社による生産をつづけてきたのは、求めてくださるお客さまがいたから。国内唯一となったいま、この工場そのものが象印だけでなく、日本製ガラスマホービンの歴史や未来において貴重な財産になっていると感じます。

  • ▲ ガラスマホービン組み立ての様子(1953年)

  • ▲ ガラス製の中びんを使用した製品

海を渡るガラスマホービン

ところで、福町工場でつくったガラスマホービンは、どんな人の手に届けられていると思いますか?じつは、約7割が海外のお客さまです。そもそも創業時から、日本ではまだ高級品だったマホービンは、主に輸出用としてつくられていました。すっかり身近な存在となり、ステンレス製が主流となったいまでも、日本製のガラスマホービンを待ち望んでくださる方々は、国内だけでなく海の向こうまで広がっているのです。
とくに愛用者が多いのは、コーヒー文化が生活に密着している中東や、口にいれるものの安全性に厳しい欧米など。それぞれの国にあわせてオリエンタルな柄や欧州デザイナーとのコラボ商品も開発しましたが、それよりもやはりジャパニーズ・デザイン、つまり“和柄”が好評を得ています。

品質でも無二をめざす

デザインへの工夫はもちろん、私たちが何よりも大切にしたいのは、お客さまの“日本製”あるいは“象印製”への信頼にしっかりと応えられる品質です。そこで求められるのは、単なる保温・保冷の性能や丈夫さだけではありません。使い心地や使用する素材の安全性など、ときに日本を上回るほど厳しい海外の基準に対応するため、生産現場ではさまざまな努力を重ねてきました。
2019年に開発したユーロデザインの商品は、スタイリッシュな印象のパッケージに、あえて大きく「Vacuum liner made of Japan premium glass」「医療グレードのガラスを使用」と記載。それは、日本製ガラスマホービンを中びんからつくる唯一の企業として、期待に応える品質を保っていくという、私たちの意志の表れでもあります。

  • ▲ 海外で人気の“和柄”

  • ▲ ユーロデザインの商品のパッケージ

機械のネジひとつも大切に

象印ならではの高い品質を支える工場では、半世紀以上前の機械も現役でフル稼働しています。そんな歴史ある設備を使いつづけるには、細かな気配りや努力が大切です。たとえば、工場にずらりと並ぶ機械のネジ1本が壊れても、それが廃番の商品なら、すぐには手に入らない可能性も。すると、たった1本のネジで、生産ライン全体が止まってしまうことになります。
だからこそ、日頃から機械の保守点検に神経をとがらせ、わずかな異常も見逃さないように動作を確認。故障などのトラブルが「起こる前」に対処できるよう、慎重にメンテナンスしています。さらに、どうしても直す必要があるところは、象印の別工場にいる技術者や協力会社に修理や部品の復元を依頼。さまざまな人の力を借りながら、この貴重な生産ラインを守りつづけています。

次世代のつくり手を育成

もちろん、どれだけ機械や設備を大切にしていても、それを扱う人がいなくなれば、ものづくりを未来につなげることはできません。この福町工場では、生産の現場を担う技術者の継承にも力を入れています。
中びんづくりでとくに難しいのは、ガラスを溶接する時の火力調節。その日の温度や湿度など、決して機械まかせにはできない、技術者の感覚や判断力が問われる場面も多いのです。そうした熟練の技を、一朝一夕で伝えることは不可能です。だからこそ、若手の技術者を積極的に育成。ひとつひとつの仕事にやりがいを感じ、何よりも「オンリーワンの商品をつくる」喜びを知ってもらうことで、次世代にバトンを託せたらと考えています。

ガラスの火を灯しつづける

創業から100年以上経ったいま、ガラスマホービンは、かつてのような高価な商品ではなくなりました。ステンレスマホービンとともに店頭に並び、「お好きな方を選んでいただけるように」と、お客さまの選択肢を広げる存在となっています。
ただ、どのように時代が変わったとしても、そこに注ぐ私たちのこだわりに変わりはありません。たとえ多数派でなくても、「ガラスがいい」と選んでくださるお客さまがいる限り、満足してもらえるものを提供しつづけたい。いつまでも温かく、いつまでも冷たい。そんなガラスマホービンの魔法と、象印のものづくりの歴史を、これからもしっかりと継承していくつもりです。

SECRET STORY.

象印ものづくりの
「ここだけの話」

丸山純

「100年の伝統と新しい技術を融合させた商品開発で、これからもお客さまに多くの選択肢をご提供したいです」

小林 尚史 / 設計開発担当

小林尚史

「高級炊飯ジャーからガラスマホービンまで、私たちが製造する商品の価格はさまざまですが、品質へのこだわりは同じ。これからもお客さまに喜んでもらえる商品をつくりつづけたいです」

丸山 純 / 福町工場

所属部署・内容は取材当時(2023年3月)のものです。