象印 ZOJIRUSHI

アップサイクルの発想で、あまったごはんを新商品に。

「ごはんで作った
除菌ウエットティッシュ」

新事業開発室長 / 岩本 雄平(左)
新事業開発室 / 栗栖 美和(右)

「象印」と「除菌ウエットティッシュ」。一見なんのつながりもない2つを結びつけたのが、大阪・なんばのサテライトオフィスを拠点とする象印の新事業開発室。従来のモノづくりから視野を広げ、日常と社会に貢献するサービスやコトづくりをめざす部署です。今回挑んだのは、炊飯ジャーのテストで食べきれなかった「ごはん」の活用。これまでの再利用から一歩踏み出し、独自の魅力ある商品素材へ。社外との協業で、ごはんに新たな価値を生みだした、プロジェクト担当者からの声をお届けします。

STORY.

食品ロスに、新しい答えを

私たちは2人とも、2018年につくられた新事業開発室の初期メンバーです。立ち上げた当初から、「象印という会社が、食と暮らしを通じて、社会のためにできることはなんだろう?」と多角的に検証。なかでも食品ロスを減らすことは、食に関わる会社として重要なテーマだと感じていました。象印の場合、炊飯ジャー開発時の社内テストで何度も試食を繰り返しますが、どうしても食べきれないごはんが出ていたので、まずはそこから取り組んでみようと。
もちろん、これまでも食べきれなかったごはんは、農産物の肥料として“リサイクル”されていました。けれど、それらを新しい価値のあるものに活用する“アップサイクル”は、思った以上の難問。その解決の糸口となったのが、ある企業との出会いでした。

  • ▲ 炊飯ジャー開発時は何度もごはんの試食を繰り返す

  • ▲ どうしても食べきれないごはんは、農産物の肥料として“リサイクル”されていた

ごはん生まれのエタノール

アップサイクルにしても、新事業の進め方にしても、長年モノづくり一筋だった象印の社内には、ノウハウがありません。ならば、社外から学ぼう!ということで、イノベーター育成プログラムに参加。そこで出会ったのが、「独自技術で食品からエタノールをつくる」などの事業を成功させている、ファーメンステーションさんでした。
象印が、「炊飯ジャーのおいしさを追求するための試食」にこだわりつつも、「ごはんを大切にしたい」と思っていることに共感してくださり、協業の申し出を快諾。私たちのごはんから精製したエタノールで「除菌ウエットティッシュ」をつくる、という初めての試みが大きく動き出しました。

“前代未聞”のプレスリリースが追い風に

「これこそ象印がつくるべきもの」という確信はありましたが、ずっと家庭用品をつくりつづけてきた象印にとって、あまりにもカテゴリーのかけ離れている「除菌ウエットティッシュ」。これまでにない管理・配送体制の構築など、商品化のために乗り越えるべきハードルが山ほどありました。とりわけ頭を悩ませたのは、どんなターゲット層に、どう売り込めばいいか、まるで見当がつかなかったこと。その突破口として思いついたのが、商品をつくりはじめる前のプレスリリース発信でした。
これまで象印は必ずと言っていいほど、商品を完成させてから情報をリリースしてきました。けれど今回はどうしても、どの分野の人々がどのような反応をするか、知っておく必要があったのです。“前例のないこと”を懸念する声もありましたが、実際に発表してみると、販促や営業の参考にもなる、さまざまな反響と手応えを得られました。

新しいルートづくりに各部署が協力

プレスリリースに力を得て、いよいよ開発がスタート。商品の品質については、協業先のファーメンステーションさんと、密にデータをやり取りしてチェック。それよりも大変だったのは、これまで扱ったことのない “ウエット”な品質を、私たち自身がどうやって保つか、ということでした。
実際に調査してみると、他の家電やステンレスボトルと同じ場所では、微妙に乾燥しやすいことが判明。そこで物流の部署と相談して、空調のある施設で保管することに。ほかにも、経理部から「流通のしくみ」や「売上管理」について教わったり、営業部から価格設定のアドバイスを受けたり。さまざまな部署に協力してもらい、ひとつひとつハードルを乗り越えていくことで、新しい商品の流れをいちからつくることができました。

「いいね」の声が嬉しくて

プレスリリースを出した時点で、他企業の方々から、「いい取り組みですね」「デザインが可愛いくて欲しくなる」と、勇気づけられる言葉をかけてもらえました。また、実際にノベルティとして採用してくださった企業からは、「持参したお得意先で、SDGsについての話が盛り上がるきっかけになった」と感謝の声が。どれもこれも、新しいチャレンジをしていなければ得られなかった、嬉しい反響です。
とはいえ、本当に難しいのはこれから。新事業として存続させていくには、もっと商品PRの機会を増やし、販路を広げる必要があります。“まずは小さな一歩から”という起業家の先輩方からの教えを胸に、エコ関連のイベントなどでつながりを広げ、より多くの方の手にとっていただけるよう努めていきます。

ごはんを大切に想う心をこれからも

今回の商品開発では、コンセプトの言葉づかいを柔らかくしたり、パッケージのメイン色にアースカラーを採用するなど、いろいろな面でエコなイメージを大切にしました。ティッシュを取り出すと、ほのかにただよう甘い香りとともに、環境や社会への象印の想いが皆さまに届きますように、と願っています。
この「除菌ウエットティッシュ」をたくさんの方に使ってもらえるほど、より多くのごはんを有効利用できます。また、試食のごはんだけでなく、象印が運営する常設のごはんレストラン「象印食堂」など、社内外で食べきれなかったごはんも、新たなルートで活かしていけたら。ごはんのおいしさ、大切さと向き合いつづけている私たちだからこそ、これからも、炊いたごはんを最後の一粒まで大切に使い切ることに取り組みつづけたいです。

SECRET STORY.

象印ものづくりの
「ここだけの話」

栗栖 美和

「他企業の方からは“古風”“保守的”と思われがちで
すが…私たち新事業開発室の “チャレンジ精神”×
“誠意”で、象印の新たな一面を伝えていきたいです!」

栗栖 美和/新事業開発室

岩本 雄平

「新しい取り組みに対して、社内で心配する声が多いほど、“お客さまをがっかりさせたくない”という誠意が強い会社なんだな、と実感します」

岩本 雄平/新事業開発室長

所属部署・内容は取材当時(2022年5月)のものです。