
プラスチックごみ削減のために象印ができること
象印では、毎日の暮らしに役立つ商品開発のほか、社会課題の解決につながる事業にも取り組んでいます。とくに近年気にかけているのが、世界中で深刻化しているプラスチックごみ問題。2018年に新事業開発室が発足して以降、象印にも何か貢献できることはないかと考え、「使い捨て容器を減らすために、マイボトルをもっと活用してもらう」ための活動をすすめてきました。
この活動や調査を通して気づいたのが、「マイボトルは持っているけれど、たまにしか使っていない」人が多いという事実です。さらに詳しく理由を調べると、“洗う”“持ち運ぶ”“中身を用意する”3つの手間が、利用の大きな妨げになっていることが明らかに。その中でも“洗う”ことならば私たちにお手伝いできることがあるはず、と考えるようになりました。

展示会での出会いから共創へ
外出先で「マイボトルをどのように洗ってもらうか」は、これまでの活動でも度々議論になってきたことです。まずは「まとめて洗うのか、1本ずつ洗うのか」という大枠を決めて、家庭用の卓上食器洗い洗浄機などで検証。そんな時、偶然ある展示会で見かけたのが、精密部品加工を手がける中農(なかの)製作所さんの部品洗浄機でした。工場で量産される部品をすばやく洗浄して乾燥させる仕組みに感心し、さっそくマイボトル洗浄機の開発について相談したところ、快く技術協力していただけることになりました。
ただ、展示会に出展されていたのは工場向けの大型洗浄機で、そのままでは使えません。いちから構造や部品を見直して、マイボトル洗浄用に小型化することで、2020年に試作機第一号が完成。さっそく社内に設置してテスト運用をしたところ、終了時に「これがなくなったら困る」という声があがり、うれしい手ごたえを感じました。

改良を重ねて実用化へ前進
試作機を早い段階から実際に使用可能なレベルに仕上げることで、さまざまな場所で検証ができるように。そうやって現場で得られた意見や結果をもとに、見つかった課題の解決に取り組む、という実用化に向けた流れが生まれました。そして2021年には社外に場所を移し、「ペットボトルのないキャンパス」をめざす近畿大学さんとの実証実験を行いました。
大学での実証機はマイボトルを「丸洗い」する仕様にしていたため、マイボトルの外側を拭く作業や大量の排水が課題となりました。そこで、その後の試作機ではボトルやフタの「内側だけを洗う」仕様へ変更。また、洗剤を使うことによる環境への負荷、補充の手間、すすぎのための水使用量も問題となったため、次の試作機からは洗剤の代わりにオゾン水を使うなど、さまざまな改良を重ねました。さらに、電化製品の設計・試作から量産までを手がける企業であるSTUFFさんにも新たに加わってもらい、オフィス等での利用を想定したコンパクト化も実現。3社で「マイボトル洗浄機」の実用化に向けて進めていくことになりました。
▲ 日鉄興和不動産との実証実験(2023年12月~2024年2月)
▲ サトーホールディングス・総合地球環境学研究所との実証実験(2024年4~9月)
さらなる飛躍、万博への挑戦
ちょうどオフィス向け洗浄機のコンパクト化を進めていた頃、大阪・関西万博が公募する「Co-Design Challengeプログラム」がメンバー内で話題になりました。そのテーマは、多彩な企業の共創による新たなモノやサービスの開発を通じて「これからの日本のくらし(まち)をつくる」というものでした。「大阪の企業である象印が、大阪で開催される万博のチャレンジに関われたら」という想いから、私たちの「マイボトル洗浄機」プロジェクトを応募することに。「これからのマイボトルの使い方をデザインする」という新しい発想やコンセプトがプログラムのテーマにふさわしいと評価され、2023年3月に選定していただくことができました。
担当者としては選ばれてうれしい一方、これまでの開発に加え、万博用モデルの開発にも同時進行で取り組むというプレッシャーが。それでも、日本国内だけでなく万博を訪れる世界中の方に、マイボトルの取り組みを知ってもらえるチャンス。全力でチャレンジしようと心に決めました。
▲ 万博用モデルイメージ
▲ 万博用モデル使用イメージ
世界に伝わる、楽しさを強化
同じマイボトル洗浄機でも、これまで開発してきた屋内のオフィス向けと、「屋外に」設置する万博用モデルはまったくの別モノ。基本的な構造をはじめ、デザイン、メンテナンス性、セキュリティなど、見直すべき課題が山積みでした。それらの対応に追われるメンバーたちの前にあらわれたのが、長年さまざまな象印製品の開発に携わってきたベテランエンジニア。これまでの経験に基づく知見をハード面で発揮してもらえたおかげで、他のスタッフがソフト面など別の課題に専念できるように。自由度が高すぎて最初はとまどっていたデザインも、象印らしさに遊び心を加えたフォルムへと結実。また、言葉の壁がある海外のお客さまにも楽しく使っていただけるように、ユーザーインターフェイス開発のプロであるソフトディバイスさんにも新たにメンバーとして加わっていただきました。
マイボトルを持って万博会場を訪れた方に楽しく使ってもらい、その他の方々にも環境にやさしい行動への気づきとなることを願って、最後の詰めに取り組んでいます。

かたちや場所は違っても、ゴールは同じ
ちょうど万博のプログラムへの選定が決まった頃から、実用化に向けて開発していたオフィス向けのマイボトル洗浄機も、さまざまな企業と連携した実証実験が本格化。そこであらためて、私たちのマイボトル洗浄機は、ウォーターサーバーなどの他社の飲料提供機器・サービスとセットで展開することが重要なのだと実感しました。社会や環境に働きかけるには、企業や業界の枠をこえ、いろいろな力を合わせる共創が必要なように。幸いにも今回の取り組みで、マイボトル推進活動に興味のある企業が多いということがわかったので、今後も協力の輪を広げていきたいと考えています。
設置される場所が万博でも、オフィスでも、使ってほしい私たちの想いは同じ。そして、使ってくださる皆さんの想いもきっと同じはずです。マイボトルをどこでも洗える暮らしが当たり前になることで、地球の未来がもっと美しくなりますように。これからもさらに多様なかたちで、私たちのチャレンジはつづきます。

象印新事業開発室の
「ここだけの話」
「万博は“未来社会の実験場”だからこそ、たとえ失敗しても、ちょっと新しい未来を見せられたら。そんなチャレンジに参加できて本当に楽しいです」
岩本 雄平 / 新事業開発室長
「安定感だけで新しいワクワクはつくれません。とくに万博に向けた開発やデザインでは、“遊び心もある象印”という柔軟な一面を見せたいと考えています」
小谷 啓人 / 新事業開発室
「私自身、普段は別の業務をしていますが、部門をこえて “手伝おうか?”と気軽に協力しあえるのが象印グループらしさ。いい会社だとあらためて感じています」
熊谷 浩志 / 法務知財部(新事業担当)
※所属部署・内容は取材当時(2024年10月)のものです。